「改めて観ると。」プライベート・ライアン 明烏さんの映画レビュー(感想・評価)
改めて観ると。
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公開当初に劇場で観た時はこんな凄い映画があるのかと圧倒されたものだが、2017年になり久しぶりに鑑賞するとそうでもないと思えてきた。
確かに冒頭、オーバー・ロード作戦のシーンは見応えがあるが、魅力的な登場人物やエピソードを作品全体でちょこちょこと描いているため結果的に美談とも捉えかねられない脚本になっている。
戦争の非業さを描いて反戦を訴えたいのだろうが、戦場という圧倒的な非日常の中でまともなヒューマニズムを説くと逆にリアルが失われる気がする。
構成も冒頭を除けば、小隊の道程でのエピソードを経て熾烈な防衛戦に至り、結果僥倖的な援軍飛来で勝利に終わるというスピルバーグ作品っぽいエンディングに至る。結果的に1人の兵士を帰還させるために命を賭した人々の英雄譚(米賛辞)になっていて、悲惨な映像で反戦を謳っても、そういったドラマティックな演出が最終的には反戦の意思をぼやけさせる要因になっている気がする
メル・ギブソンが2017年公開の『ハクソー・リッジ』で、殺さない決意を持ち命を救うためだけに戦場に立ったある意味狂気(狂信)の男個人を描いた。
作品の主題として大戦中に実在した英雄を描いた事に違いは無いが、ライアンの登場人物達は当然普通の兵士なので救うためには殺すし、殺さないと殺されるという論理でそこに居る訳で、結果的にもたらされたものが同等であれ物語が内包するメッセージ性は雲泥の差があると感じた。観る側に悲惨さを訴えたければ、あくまで冷酷に悲惨さを突き付け続けなければ説得力も無いのだ。
戦争というものについて考えさせられる部分が希薄なこの作品は「上手に撮られた戦争映画」で、それ以上でも以下でもないと感じた。
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