劇場公開日 2022年11月5日

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「本当の“多様性”とは?」冬の旅 シューテツさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0本当の“多様性”とは?

2022年12月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

1985年の制作の私は全く知らなかった作品ですが、ネットで凄い作品という噂は聞いていたので観に行きました。
監督はアニエス・ヴァルダで私は昔に『幸福(しあわせ)』だけ観ていますが、これは傑作でした。

本作も確かに凄い作品だと思います。非常に心をざわつかせる作品でした。しかし、何が凄いのかを説明し難いし、感想を書くのも難しい作品でした。
でも、十代の多感な時期に鑑賞していたら、かなりの衝撃を受けたことは間違いない作品だったと思います。
そういう意味では、私の場合アメリカンニューシネマの作品群と同じ様なメッセージを持っていたのかも知れません。

近作で似たような類似作品を探すとすれば『イントゥ・ザ・ワイルド』や『ノマドランド』などを挙げられるのですが、全くテイストは違います。(そういう意味ではフランス映画ならではの作品なのかも知れない)
あちらの主人公には“信念”の様なものが作品の中で一貫していたので、理解しやすかったのですが、こちらにはそれが無い、というか分かり難い。
一見ただの浮浪者の野垂れ死にの様に捉えられなくもない死に方でしたが、それともちょっと違う何かも感じられました。恐らく“信念”とは別のものにつき動かされていたのだと思います。

こういう作品によく使われる単語として“自由”“現実逃避”“社会への反抗”“個人主義”等々の言葉が頭の中で飛び交うのですが、本作の場合はどれもピタっと当てはまらない様な作りに敢えてしている様な気配(計算)さえ感じられます。その辺りは『幸福』とも共通する作風です。
なので、鑑賞するにも相当なインテリジェンスを要する作品なのだと思えますし、私も言語化出来る自信は全くありません。
ただ直観的に、人間の真実というのか社会教育される前の人間の根幹に元々ある何か大切なものを生きることにより消失されるのを描いていた様にも感じられました。
なんだか、キリキリと胸が痛む作品ではありました。
これは誰にでもお勧めできる作品ではありませんが、馬鹿みたいに“多様性”という言葉を使いたがる人達には本当の“多様性”の意味を考えるうえでも観ておくべき作品だと思いました。

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シューテツ