「自由の国アメリカは実は保守的で束縛も多い」フットルース Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
自由の国アメリカは実は保守的で束縛も多い
総合:65点
ストーリー: 60
キャスト: 65
演出: 60
ビジュアル: 65
音楽: 75
アメリカといえば自由の国。日本人はそんな印象をついつい思い浮かべてしまうが、実はキリスト教に基づく保守的な価値観や考えを持つ人々はいまだに多い。
中西部の郊外を車で移動すると道路沿いにはコンビニよりもたくさんの教会があちこちに並んでいて、毎週日曜日にはそれらに周囲から大勢の人々が家族連れで早起きしてやってくる。この映画のように音楽や踊りを禁止するようなことが実際にあったのかどうかわからない。それでも一般の日本人からすると理解に苦しむような超保守的な考えかたをして社会の規律を決めてしまう人々が、普通にアメリカにもいるのは十分に有り得る。数千年前に神がこの世を作り、そこから地球の歴史は始まったという創世記を教えられて、本気でそれを信じている人すらたくさんいるのである。そのような背景を理解しているとよりこの映画を楽しめるかもしれない。
そのような保守的な人々の価値観に合わないよそ者が新しいことを始めようとすれば、当然のごとく田舎町に軋轢を生むのである。地元の人々にしてみればよそ者はまるで秩序の破壊者のように思えるのであろう。だから歌や踊りという自分の好きなことをやりたいというたったそれだけの自由を得るには、彼らに逆らい自ら自由を勝ち取るという行動を起こさなければならない。
そして反発を受けながら少しずつ理解を得るというひねりなしの王道な物語である。必然性もなくいきなり踊りながらセリフを歌う不自然なこともない。だが練習やら舞踏会やらであちこちに歌や踊りが散りばめられていて、これらが映画の見せ場。時代を感じる音楽や踊りだが、懐かしさを感じながら音楽を楽しむのもいいだろう。
2023年10月追記
最近、この映画の舞台となったユタ州の町のすぐ近くの出身というアメリカ人に偶然会った。もっとも学校があった主な撮影場所だったPaysonではなく、重要な舞台となったLehi Roller MillsがあったLehiという町から数キロ離れたAlpineという町の出身で、彼は映画が撮影されたLehi Roller Millsの建物にも行ったことがあると言っていた。それでこの映画の話をして、本当にこの映画のように踊りを禁じるようながちがちに保守的な雰囲気があったのかと訊いてみた。
彼は21世紀生まれの若者だったが、彼の学生時代にそんな雰囲気は全く無いということだったし、彼の両親・祖父母の時代にもそんなことは無く、昔から踊りを楽しんでいたということだった。映画は映画で、現実とは違うと言っていた。少なくともこの町は現実には踊る自由があったようだ。