「心に浮かぶ思い出を広げたサーカス的自叙伝」8 1/2 parsifal3745さんの映画レビュー(感想・評価)
心に浮かぶ思い出を広げたサーカス的自叙伝
芸術的な作風の映画監督は、なかなか大変なのだろなと。若いうちは創造的な力も旺盛だろうが、歳を取る度にその泉は枯渇していく。8と1/2番目の作品ともなれば、成熟に差し掛かって大成する頃。自叙伝を作るには、少々早い感じがするが43歳の作品らしい。
映画監督に降りかかってくる、様々な雑事、売り込んでくる俳優、媚を売ってくる女性等、フェリーニが体験したことを時制を無視して、突っ込んで映像化している感じだ。
新しい映画の製作に取り掛かろうとする場を扱っているのだが、現場のゴタゴタ、批評家を黙らせるような映画にならない焦り、周囲に女性が多いことからくる妻の嫉妬と不機嫌、
愛人の存在がバレる、本当に気に入っていた女性の到着等が監督に襲い掛かってくる。
そこに、幼少期の頃の彼の原体験ともいえる恥ずかしい思い出なども挟まったり、宗教的な教義やら性的な蘊蓄やら、しっちゃかめっちゃか。
彼には、哲学的、芸術的な確固たる信念のようなものがない故の脅迫観念があったのだ。それに悩み、そこから脱するために女性に救いを求め、得られない。気づいてみれば、乱痴気騒ぎのようなカオスの状態。そこでハタと気づく。このまま無理に作っても意味がない。
自分自体の今までの人生を隈なく陳列をすれば、サーカスみたいなもの。様々な人やらものを引っ張ってきて、何でもあり。それこそが自分なのだと。全体が輪のようになって、サーカスの見世物のように踊るシーンは、上手くまとめたものだと感心をした。
芸術家だけが見ることができる心象風景であり、それを映画にしたのだと思った。心に強く残る作品というよりは、芸術性が高い、稀有な作品だと感じた。
何でも詰め込んだ感じが、宮崎駿監督の「君たちはどう生きるか」に、似ているなと思った。