「私の頭の中のハーレム」8 1/2 ipxqiさんの映画レビュー(感想・評価)
私の頭の中のハーレム
早稲田松竹で今年初の劇場鑑賞。
休みの日の昼の回でほぼ満席でしたが客席の民度は高めで混乱もなく。
呎がかなり長い(トイレ行きたくて気が散る)ことを除けば好きな映画だった。
とにかく画がきれい。ロケーションやら衣装やらカメラワークやら、とにかくフェティッシュが満載。白黒だけど色のコントロールが完璧。車はシトロエンDSぽいのが出てくる(最高にかっこいい未来カー)。
音楽はニーノ・ロータだけど、ワグナーのワルキューレとか、聞き覚えのある曲の印象が強い。
予算があるんだないんだか、優雅なんだか破れかぶれなんだかわからない、貧乏だけど妙に貴族的な感じがイタリアっぽい。江戸っ子気質というか。。
当時の観客にはさそじかしインパクト大だっただろうな(でももし自分が当時の観客だったらこれをちゃんと好きだと言えただろうか。。)
トップシーンからしてもう強烈。車の中で窒息しかけるマストロヤンニを周囲の誰一人として助けない。ノーリアクションなだけで人の顔ってこんなに怖いんだな。。
画面が白黒というのも手伝って、終始悪夢の中にいるような浮遊感が漂う。
一方で、現実と幻想(現実逃避)がシームレスにつながる感じは妙に舞台劇っぽくもある。
そして、こんな内容なのに意外なほど理解しやすい。
相貌失認の気があるので、初めは説明が少ない中で誰がどの役だ?って思ったけど、最終的には問題なく飲み込めた。どうやらイヤリングをしないのが本命の女と見た。
ハーレムシーンは色んな前提を抜きにしても、いちばんハッとさせられた。自分の女を一堂に集めた光源氏同様、男の夢はいつの時代も同じなのか。。
これは映画関係者の(悪)夢のような作品だと思う。自分の脳内、あるいはセラピーの過程がそのまま一本の映画になる。
デビットリンチ味が濃い。「マルホ」の時間シャッフル構造をすごく想起した。あとはエヴァTVの最終回を思い出して、今にもみんなが拍手しはじめるんではとヒヤヒヤした。
どんな監督も一度は夢見るだろう自伝的な作品だろうけど、カトリックだからか?非常にきまじめさを感じたり、クールなのにすごい土着的なものに縛られている感じがする。
映画の語りや構造はテクニカルだけど基本的な心根は無垢っていうギャップは、ニューシネマパラダイスを思い出した。
あとはすごいお風呂映画。なにしろ舞台が温泉だし。水=死や誕生、洗礼を連想もするけど、まず単純にあのハイソな湯治場がめちゃくちゃ映える。
あとはあの巨大な農家っぽい家。あんな構造の家、初めて見た。あれは実在の場所なんだろうか。私が見たことのあるドイツや南仏、ゴッドファーザーのシチリアとかとも全然違う不思議な作り。
家の中に屋根付きの中庭みたいな炊事場があって、階段で上がるとアパートみたいに個室になってる。壁や階段は土みたいな素材で、今見ると逆にモダン。セットかも知れないけど、モデルがあるならイタリアの前近代やばいな。