「英国ArrowVideo/英語音声の不具合」フェノミナ mobie.t.1856さんの映画レビュー(感想・評価)
英国ArrowVideo/英語音声の不具合
スコアは作品に対して。
レビューは、英国ArrowVideo版DVD・BDの英語音声について。
イタリア映画ではあるが、俳優の口元を見ても分かる通り、英語がオリジナル音声。
これは国際マーケットを視野に置いた結果。
アルジェント作品全てに共通。
輸出する際は英語音声の完全版(116分)だが、
国際配給を請け負った輸入サイドでカットした国際版(111分)を製作。
アルジェント・サイドでは、吹き替えのイタリア語音声フィルムしか保管しておらず、
英語音声版は国際配給を請け負ったサイドが保管。
しかし、カットされたフィルムは破棄されたのか、国際版にないカットの英語音声は喪失。
もはや、全編英語音声に因る完全版での観賞は不可能。
アルジェント作品で同じ状態にあるのが
『4匹の蝿』『サスペリアpart2』『トラウマ/鮮血の叫び』『スタンダール・シンドローム』。
カットした国際版が製作されたが、米・オライオン映画が完全版も保管していた為
『オペラ座/血の喝采』は英語音声の欠落の難を逃れている。
英語音声欠落部は、
イタリア語(若しくは他の吹き替え・新録)に置き換えに成るが、
現存する英語音声を全て活用する完全版の復元は技術的に可能。
前述の4作品は、BGMが連続していないシーンへの挿入なので容易。
反面『フェノミナ』は、ラフ編集とも云える完全版から、細かく再編集されており、
BGMが連続したシーンに、欠落部を挿入する作業が不可欠。
これには、セリフ・効果音・BGMがミキシングされた一つの音声トラックでは不可能で、
リミックス前の別々の独立した音声トラックが必要。
(DTSなどデジタル音声時代前の)フィルムは、セリフ・効果音の音声トラックと、
サウンド・トラックが分離し二つのトラックから成る。
吹き替えの必要な海外のTV局には、全てリミックスされた通常の音声トラックと、
セリフがない吹き替え用の効果音とサウンドのみの二種類の音声トラックを納入。
個人レベルでは無理だが、
DVD・BDを発売する業者なら、これらの素材の入手は可能。
複数の素材を入手し、複雑で面倒な編集を駆使しなければならないが、
技術的には、英語音声を全て活用する完全版の復元は可能。
しかし、英ArrowVideoはこれを怠り、全てリミックスされたイタリア語音声と英語音声を用意したのみで、
イタリア語音声のボリュームの強弱を変えたりし、英語音声をボイス・オーヴァーの様に被せ、誤魔化している。
しかも、映像と音声の周期に大きなズレが生じ、
本来、音のない処でセリフや効果音が聞こえる。
これは明らかなミス。
就寝前のソフィとの会話シーン*古校舎から転落〜地元青年に拉致シーン
*ソフィ殺害シーンなどが相当し、BGMが連続していない事に気付く。
映画全体から見れば、ごく一部分ではあるが、
観賞者は萎えてしまう。
今回の音声処理はアマチュアでも可能である。
BDの映像は申し分のない出来で、美しい。
しかし、映画は映像と音声の同期した複合娯楽。
どちらも手を抜いて欲しくない。
業者としてプロのポリシーを持って欲しかった。
そして、懸念する事が一つ。
日本の映像メディア発売業者が、このArrowVideo版の権利を得て、
英語音声に問題のある事を無視し、字幕を付け発売する事。
※但し、これは英語音声に限り不備があると云う事で、
イタリア語音声を含め他の吹き替えには、このような問題はありません。
アルジェント監督作品のなかでも上位を占める人気作であり、
恐怖映画としての出来も上々です。
そして、俳優本人に本当に吐かせる非常に稀なシーンが存在しており、
映画史上類を見ないものです。
他にも見所は多く、アルジェント、ジェニファー・コネリーのファン以外でも、
満喫出来ると思います。
英語音声の問題はあるものの、一見の価値のある作品です。