「タイトルなし」ひまわり(1970) kazzさんの映画レビュー(感想・評価)
タイトルなし
第三回 新・午前十時の映画祭(2015/5/17)
午前十時の映画祭14(2024/12/21)
にて。
戦争が人にもたらす悲劇には人の数だけ様々な形があるのだと、この映画を観るたびに思う。
戦地に赴いた夫が戻らず、生死も分からない。単身でロシアの地に夫を探しに行くジョバンナ(ソフィア・ローレン)の執念に近い愛。
夫アントニオ(マルチェロ・マストロヤンニ)は、極寒の戦地で生死の境にいたところを現地の女マーシャ(リュドミラ・サベーリエワ)に救われ、終戦後もマーシャとその娘と暮らしていた。
当事者は誰も悪くない。戦争が引き起こした悲劇が、ときに人の心に邪気をもたらす。
戻らない息子を待つ老母。息子の痕跡を消そうとする嫁に憤るが、嫁から息子の現状を聞かされたとき、嫁への謝罪の思いよりも息子が生きていたことの安堵の方が強くても、責めることはできない。
アントニオはもう戻ってこないかもしれないと知りつつ、故郷へ送り出したマーシャの思いにも身がつまされる。
今この映画を観たときに、あの戦争が終わって平穏が訪れた当時のウクライナ地方のひまわり畑の風景に、現在はどんな状況なのだろうと、思いを馳せずにはいられない。
ソ連が全面協力して製作された本作(イタリア・ソ連・アメリカ・フランスの合作)だが、当然のようにソ連側の様々な要求や制約があり、揉め事もあったようだ。
とはいえ、ロケが行われた現地では、イタリアの世界的スターを迎えて歓迎ムードに盛り上がる中で撮影が行われたという。
映画(スター)には、イデオロギーの対立を封印させる力があるのだ。
余談…
ミラノ中央駅のホームから見える看板は「Olivetti」ではないだろうか。当時はイタリアの代表的な企業だった。一時期は日本法人もあり、アップルに引けを取らない美しいパソコンを発売していた。
さらなる余談…
ソフィア・ローレンは日本でも認知度は高かく人気もあったが、この映画が公開されたときの日本では、リュドミラ・サベーリエワが話題をさらったらしい。
ロシア人女性の透き通るような美しさに、当時の日本男子が魅了されたことは想像に難くない。