劇場公開日 2023年7月28日

「美しいが死を連想させる「ひまわり」が印象深い一作。」ひまわり(1970) yuiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5美しいが死を連想させる「ひまわり」が印象深い一作。

2022年5月30日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

表題ともなっているひまわりが一面に咲き誇る場面が非常に印象的な作品。デ・シーカ監督は明らかにひまわりを、「死」の象徴として描いていて、それは作中でも、ひまわり畑とほぼ同じ構図で映し出される無数の墓標によって強調されています。第二次世界大戦後の旧ソ連(ウクライナ)、イタリアを舞台とした本作は、単に撮影場所の一つがウクライナだった、というだけでなく、戦争によって運命を大きく狂わされた人々を描いているという点でも、今観られるべき作品となっています(収益の一部はウクライナ支援に使われるとのこと)。

2020年に製作50周年を記念してHDレストア版が制作、公開されているため、画面はひときわ美しくなっています。マルチェロ・マストロヤンニは前半部では快活で軽薄な若者を、後半部では人生の陰を引きずり、疲労しきった男性を演じ分けています。一方ソフィア・ローレンもまた、行方不明の夫を探して奔走する女性を演じており、夫の行方を知りたいがあまり激情してしまう場面も少なくありませんが、それでもまさに正真正銘の「名優」としての存在感は全く揺らぎません。むしろ演技の面ではマストロヤンニの印象を奪ってしまっているのでは、と思うほどです。

ヘンリー・マンシーニが手がけたテーマ曲は、映画音楽を代表する名作として知られていますが、作中でも繰り返し流れるため、映像とともに脳裏に焼き付きます。

世界で最も知られた名作の一つなのに、上映時間は約100分と、現代の基準から観たら非常にコンパクトな作り。しかし旧ソ連とイタリアを舞台にした物語は、上映時間からは想像もできないような広がりを見せています。

本作を映画館で観ることができる機会が訪れるとは想像もしていませんでしたが、上映の背景にウクライナ問題があることを思うと少し複雑な気分になります。少しでも早くウクライナの戦争が終結することを願ってやみません。

yui