「再会を通じてより深まる断絶」ピクニック(1936) 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
再会を通じてより深まる断絶
人の皮を被った鬼のような映画だった。そこにあるのは人々の温かな交感などではなく、都会と田舎の仁義なき相互消費だ。都会の家族は田舎を都合のいい楽園程度にしか考えておらず、冒頭から地元の人々に陰口を叩かれる。一方で地元の青年2人組は美しいパリジェンヌとその母親をどうやって籠絡してやろうかとさまざまな手段を講じる。
都会の家族は生来能天気ということもあり、はじめから女をゲーム的に攻略することにしか興味がない青年たちよりは幾分マシに思える。しかし野原で交わされる母と娘の会話はきわめて示唆的だ。娘は虫にも感情があるのかと母に尋ねる。それに対して母はそんなものあるわけないでしょうと一笑に付す。このとき「虫」が何を寓意しているかは言わずもがなだ。
表層上の温かな交流の底で交わされる都会vs田舎の冷戦は人気の少ない森の中でいよいよ最高潮を迎える。青年の下卑た欲望に気づかない娘は木々の間を飛び交う鳥に夢中だ。青年はそれをいきなり押し倒し、強引に我が物とする。
数年後、結局都会のおぼっちゃんと結婚した娘が再び田舎を訪れる。そして自分が押し倒された森の中であの青年と再会を果たす。彼女の瞳を大粒の涙がこぼれ落ちるが、一方で青年の所作はどこか冷たげだ。夫と共にボートで彼岸へと帰っていく彼女の姿を追うのは彼が吐き出すタバコの煙だけ。
いつまでも田舎にボヴァリズム的な夢想を抱く娘と、もはや他人の「所有物」となった女とその肉体に身勝手な喪失感を覚える男。都会と田舎の断絶は二人の再会によってむしろ深刻さを増してしまった。
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