パルムの僧院のレビュー・感想・評価
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174分。長いならではの面白さがある映画だった。
時間や経験で人が変わっていくところがじっくり描写されるのには良い長さ。
最初、<何なのよ、この軽い人たち…>と少々バカにしながら観ていた。しかし、彼らが思うようにならない点に折り合いをつけながら何とか自分らしく生きようとするところが、段々いじらしくなってきた。
最後の公爵夫人の最後のファブリスを助けるための行動は凄い。また変わらないだろうと思っていたファブリスがそれでも少しずつ変わっていったのが興味深い。3人とも、ままならない人生で自分なりの判断を下した。生きるというのは、面白いが難しい…。
おもしろさはスタンダールの原作によるところが大きいのだろうが、ここでは、美男美女が登場し、他にも表現力ゆたかな役者さんが多くて楽しい。(庭の鉄格子の向こうのせつない表情のファブリスは、女性なら放っておけないだろう…)看守役の男は個性的で惹きつけられたし、パルム大公も楽しかった。
有名古典小説の実写化
主役のGフィリップの貴族姿が見目麗しく眼福。二人の女性主人公も美しい。
本作では青年を主に、三人の人生が交差し離れて行くまでの過程を追う。主人公達の人生を象徴して三本に道が別れるラストカットが心に残像を残して効果的で、青年との事は過去の事としてきっぱりと後に残し、未来を見つめて歩き出す女性陣と、まだまだ未練たっぷりなのだろう、思い出と共に当地に留まることにした青年の生き方の対比が鮮やかで、面白かった。
恋と冒険のファブリス青年のロマンチックな冒険活劇に、ジェラール・フィリップとマリア・カザレスの魅力満載
フランスの文豪スタンダール(1783~1842)が、1839年に発表した同名小説の映画化。恋あり、冒険あり、陰謀も術策もありといった具合で、若き主人公ファブリスの波瀾万丈の生涯が単純明快に描かれている大作だ。それでも文芸映画の重々しさは無く、軽快で一寸しっとりした娯楽映画の特徴を持つ。その点では、大衆通俗作家クリスチャン=ジャックの面目躍如といったところであろう。いい意味で、フランス映画のロマンティックな楽天性があり、それなりに楽しめた。物語は、ナポリでの学生生活を終えて故郷パルムに帰ってきたファブリス青年の登場で始まる。そこで女性二人との三角関係が、色々な局面を見せながら展開して、結局は実を結ばず終わりが来る。
事件の発端は、ファブリスがマリエッタという可憐な女優に恋し愛し合ったものの、彼女の以前恋人であった道化役者ジレッティの知るところになり邪魔される。このシークエンスがとても美しくて儚い。マリエッタのマリア・ミーキも悪くはないが、何といっても一代の色男ジェラール・フィリップのしなやかな演技と視線がいい。林の中でジレッティと泥まみれの戦いをする恋の対決場面に、ファブリスのプレイボーイ振りが嫌らしいほど滲み出ている。そして、間違ってジレッティを刺してしまい逃げるファブリスと追跡する衛兵たちの活劇シーンが、テンポ良く描かれている。幽閉されると、独房の小窓から見える庭園に清楚なクレリア嬢が現れて、次第に熱い仲となって行く。ルネ・フォールの繊細で清らかな美しさがひと際輝き、そのロマンティックな情趣と、ファブリスの伯母サンセヴェリーナ公爵夫人が仕組んだ脱獄計画の冒険活劇が程よくブレンドされている。公爵夫人に扮するマリア・カザレスの気品ある存在感が素晴らしい。その為、その冒険活劇が少しも安っぽくないのだ。ただ、サンセヴェリーナ公爵夫人に夢中なエルネスト4世の設定が、道化の権力者故のコメディ色があり、最良とは言い難い。ジャック監督としてもそれで精一杯であったのだろう、惜しい。クレリアがファブリスの脱獄を手助けしたものの、典獄(刑務所長)の職にあった父親は罷免され、仕方なく大金持ちのクレセンツィ公爵と結婚してしまう。ここからファブリスの行動が、男の心情を浮かび上がらせ、越えられぬ恋の衝動がロマンを溢れさせる。何と巧い筋立てであろう。スタンダール原作のお蔭でも映画として描き通したと思う。
ファブリスと公爵夫人とクレリアの恋に正直であろうとする心の綾が、いつまでも深く沁みる大恋愛悲劇である。それを真正面から描いておもねることなく美しい、フランスという国とフランス映画。
1980年 1月10日 フィルムセンター
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