バリエラのレビュー・感想・評価
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野蛮なる映画芸術
『身分証明書』『不戦勝』に比べ明らかに表現主義の度合いが強くなった作品。信号が青に変わると同時に群衆が一斉に走り出したり、BGMの指揮棒を合図に真っ暗な背景が突如として煌々と輝き出したり、外連味のある映像が連続する。おそらくポーランドの政治情勢のアレゴリーであろう映像の数々をすべて把握し、解釈することはできないが、それ以上に映像そのものが持つ動きのパワーに圧倒される。
前作にもみられたカメラの多動症ぶりは相変わらずで、まるで好奇心の赴くままに子供のような縦横無尽さでもって眼前の出来事を追っていく。どこまでも続く階段を追うカメラと一緒に自分の頭が少しずつ上向きに傾いていくのを感じた。
瞠目すべきショットは多々あったが、やはり一番に言及すべきはスキージャンプ台から主人公が滑落するシーンだろう。マジで滑落するとは思わなかった。しかもワンショットという原理的に嘘がつけないフォーマットで。芝居の際に主人公役の俳優を襲ったであろう痛みは想像に難くない。こんなこと現代では絶対に許されないだろうが、その危険さこそが映画の快楽であることは言うまでもない。
映画は崇高だ、みたいな論調にたびたび出くわすが、映画好きが一番美しいと感じてしまうのはやはりこのような野蛮極まりないアクションシーンだ。こんな後ろめたい芸術は他にない。俺は映画の野蛮さが大好きだ。
あと、スコリモフスキは長方形の板が本当に好きなんだな。『不戦勝』では巨大な鏡が、『早春』では娼婦の等身大パネルが、本作ではアルファベットが書かれた板がそれぞれ印象的に登場する。
とにかくコメダの音楽!最高!
ポーランド映画祭にて、デジタルリマスター版を鑑賞。
全編に渡って過剰なまでに象徴主義的で詩的な映像表現が展開していく。
当時のポーランドにおけるビートニクな一作。
何度も台詞にも出てきたが、極めて「冷笑」な突き放したトーンで、独特のドロップアウトなロマンチシズムが展開されていく。
勿論、当時の社会主義体制や上の世代に対するアンチテーゼは重要なテーマだったのだろう。
モノクロの画面構成が本当に見事で秀逸だが、終始エキセントリックで先の見えない展開は、当時の監督の心情も反映されていたのかもしれない。
最終的にはラブストーリーとして着地するので、恋愛描写の方は、もっとストレート且つ、わかりやすくした方が、コントラストも効いて良かったとは思う。
最後まで集中して観ることが出来たのは、兎にも角にも、クシシュトフ・コメダの作ったサウンドトラックのおかげだろう。全編に渡り全て最高。あの鮮烈なアレンジ!今なお新鮮!
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