「才能を生かせる場があるかどうかは真の問題ではないのかも」バベットの晩餐会 Tenjinさんの映画レビュー(感想・評価)
才能を生かせる場があるかどうかは真の問題ではないのかも
キリスト教色を除けば一昔前の道徳の教科書に乗っていそうな品のいいお話。ちょっと雰囲気は違いますが、O・ヘンリの「賢者の贈り物」を思い出しました。欲にまみれた現代に生きる我々としては、この非常に慎ましく生きる人達から静かにお説教をされている気分になります。ただし、あくまでも彼らがそういう生活を送っているというだけであって押し付けがましさはないので、不快感はありません。
デンマークの映画が全部そうなのかわかりませんが、かなり禁欲的なのが特徴ですね。恋におぼれるなどはもってのほかと言う感じで、これがフランスやイタリアの映画ならまずそちらが話のメインになりそうなところが、終始とても慎ましいやり取りのみの描写になっています。19世紀の話とはいえ、これだけプラトニックで奥ゆかしい恋のあり方が成り立つとは、キリスト教の教えの強制力はすごいと思います。
さて、話の本筋はタイトルにもある晩餐会ですが、小さな田舎の村だけにフランス料理のフルコースなどは見るのも初めてであって、まず使われる食材からして驚愕の目で見られます。バベットの主人である姉妹の一人が海亀の悪夢にうなされるシーンは、この映画の落ち着いた雰囲気には不似合いなホラー的演出が入っていてちょっと笑ってしまいました。
見ていて思ったのは、とにかくよく食べよく飲むこと。自分ならとても無理な量です。そこだけは禁欲的ではないですが、たくさんワインやシャンパンを飲んでも酔態をさらさないのは抑制が効いていると言えますね。それにしても、これから先まず口にすることのないであろう上等な料理や酒を味わってしまうと、普段の食事が味気なく感じられたりしないんだろうかと思ったりもするのですが、それこそ余計なお世話でしょうか。
(追記)
NHK-BSで放送されていたのでまた見てみましたが、初見の時より評価が上がりました。地味だけど品があり、じんわりと染みてくる浄化剤のような作品ですね。
何といっても晩餐のすべてが終わった後のバベットの表情がいい。久々に腕を振るう機会を全うした満足感と、恐らくはもう二度とその機会がないことへの寂しさの両方が溶け合ったなんとも言えない顔なんですね。
>久々に腕を振るう機会を全うした満足感と、恐らくはもう二度とその機会がないことへの寂しさの両方が溶け合ったなんとも言えない顔なんですね。
まさにそんな顔でした。素晴らしい表現。