劇場公開日 1954年6月22日

「マーロン・ブランドの瑞々しい演技とエリア・カザンのリアリズムタッチのモンタージュ」波止場(1954) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5マーロン・ブランドの瑞々しい演技とエリア・カザンのリアリズムタッチのモンタージュ

2022年6月18日
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鑑賞方法:映画館、TV地上波

アメリカ映画史に遺る名作である。エリア・カザン作品では「エデンの東」の方が日本での評価も人気も高いけれど、本国では特にマーロン・ブランドの名演が光るこの「波止場」が、カザン監督作品の最高傑作として記録されているようだ。私的な好みからも、ジェームズ・ディーンが素晴らしい「エデンの東」をより評価したいとは思うが、脚本・演出・演技・撮影・音楽と全てが揃った「波止場」も大変優れていることに賛辞を惜しまない。

前作「欲望という名の電車」で悪徳の役だったマーロン・ブランドは、元々は他人の意見に流される思慮の浅いチンピラ男だったが、殺された友人の妹エヴァ・マリー・セイントと恋仲になり、また暴力排除を説くバリー神父カール・マルデンの後押しのお蔭で次第に正義感を持ち勇敢さを身に付ける男らしい成長を見せて、最終的には悪を倒す模範的青年テリーを熱演している。その演技の瑞々しさと安定感と巧さは、アカデミー賞受賞を当然とする。このようなブランドの演技こそ、アカデミー賞に相応しいとまで言い切れるくらいの輝きであった。カザン監督の的確な演技指導も窺える。

その意味で感心したのが、リー・J・コップ扮するギャングのボス ジョニーの描かれ方だった。如何にも悪い奴といった強調した単純な作為ではなく、極ありふれたワルのリアリティーで描かれている。これがブランドの演技を更に自然なものにしている。原作は実際の事件を基に創作されたものだという。舞台演出でも名が高いカザン監督は一つ一つのシーンを丁寧に積み重ねて、ロケーション撮影の特質を生かし、全体としてはリアリズムタッチで纏め上げている。兄チャーリーが殺されたことから復讐に燃えるテリーが、正義を貫くことと自分の生きる道を見つけた行動に変化していく段階をラストに向って盛り上げる演出も素晴らしい。テリーとジョニーの闘いを、ただ黙って見詰める労働者のワンショットの緊迫感。そして、血みどろになったテリーが、労働者たちの前を進み職場へ向かうシーン。背後からテリーの下半身だけと職場の入口を映したショットのカメラワークの斬新さ。ここには映画らしいモンタージュの効果が発揮されている。
演出と演技の密度の高さ、ドキュメンタリータッチを生かしたところとモンタージュの工夫と、美点を挙げればきりがない。「欲望という名の電車」の演劇映画とはコンセプトを異にして、ここには映画の魅力が溢れている。上記のブランド、セイント、マルデン、コップに加えてロッド・スタイガーの好演と、ボリス・カウフマンの撮影、レナード・バーンスタインの音楽も明記しなくてはならない。

  1976年  10月30日  早稲田松竹

Gustav