「 晩秋恒例のポーランド映画祭。今回は劇場を変えて、シネマート新宿に...」灰とダイヤモンド よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
晩秋恒例のポーランド映画祭。今回は劇場を変えて、シネマート新宿に...
晩秋恒例のポーランド映画祭。今回は劇場を変えて、シネマート新宿にて開催。シアター・イメージフォーラムの小ぶりなキャパではとうてい収まらないであろう客数で、会場を変更した理由が分かるような気がした。
今年の監督特集は、亡くなったばかりのアンジェイ・ワイダ。残念ながらスケジュールの都合で観ることができたのはこの「灰とダイヤモンド」一本のみ。
観る者の登場人物への感情移入をここまでコントロールするとは。政治的な検閲があった時代のシナリオと演出の知恵に脱帽である。
この作品、おそらく当局の検閲がフィルムの最初のほうだけに限られる傾向を逆手にとってはいまいか。
主人公たちが小型トラックに乗ってきた者たちを銃撃するテロリズムのシークエンスが、どうしようもなく安っぽいアクションにしか見えない。しかもどうやら主人公らしいのが、サングラスしたニヒルな感じのする、共感しにくい男なのだ。芝居も雑なら編集も雑。これからつまらないスパイ/テロリストの話が始まるようにしか思えない。
これを見た検閲係は下らないB級娯楽映画だと思って、最後までは見なかったのではないだろうか。そう思えるくらいに、冒頭はダサい。
しかし、酒場の女と恋に落ち、彼女とベッドに横たわるアップのカットが見事。「第三の男」でオーソン・ウェルズが登場したときのように、陰影に富み人間の皮膚の温度や湿度を感じさせる。このような素晴らしいカットの積み重ねを経て、ごみの山のラストではしっかりと観客の心をつかんでいる。
技術的、文化的、政治的な制約のほとんどない昨今のCG全開の映画と同列には論じて欲しくない。制作された時代と場所、題材とされた歴史を理解して、その価値を感じたい人類の遺産的作品である。