「頭痛シーンがすごい良い」π パイ 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
頭痛シーンがすごい良い
音と映像を受け手の感覚と接続するのがすごい上手いなあと思った。主人公が頭痛に見舞われると画面がぐわんぐわん揺れたり不快な音が周期的に鳴ったりするんだけど、その周期がちょうど実際の頭痛のときに感じるそれと同じだった。
画面も音もいじればいじるほど作為性ばかりが強調されて実感覚からは乖離していくんだけど、本作はそのへんのバランスがよかった。表現そのものは誇張的なんだけど、根底で実像を捉えている、的な。
アロノフスキー監督の『ブラックスワン』が今敏の『パーフェクトブルー』を範型としていたというエピソードは有名だが、本作も日本アニメの影響がモロに出ていた。映像的混沌が臨界点を超えた次の瞬間に真っ白な無音空間が立ち現れる、みたいなの、まさに90年代末のアニメだ。
高等数学を扱っているという割には物語はわりと単純だし、引用される人名だの概念だのもサブカル系まとめサイトでよく見るようなありふれたものばかりだった。まあ、そのおかげで最後まで見られたんだけども。
好奇心に駆られ、目が焼けるのも厭わず太陽を見つめてしまったことのある主人公が、数字という魔性に惹きつけられるのは論理的必然だ。主人公は飽くなき探究の果てに太陽の実像を視ることができたのか。3桁の乗算に「わからないよ」と微笑む彼の表情はひどく寂しげだった。
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