劇場公開日 1985年5月3日

「からまる記憶」眠れぬ夜のために 津次郎さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0からまる記憶

2020年7月11日
PCから投稿

行きずりの女を助けたばかりに、国家間の争いに巻き込まれる不眠症の男のサスペンスコメディ。
国際的な組織に追われるジェフゴールドブラムとミシェルファイファー。
なんとか逃げ延びて、途上でダイナーに立ち寄る。そこでアイスな、クリームな感じのスイーツを食べる。ミシェルファイファーが「ふたつ食べるわ」と言ったのを覚えている。

カートヴォネガットの小説「チャンピオンたちの朝食」には作者自身が書いたイラストがちりばめられている。主人公のキルゴアトラウトが、車窓から眺めた看板にこんなことが書かれていた。
『It is HARDER to be UNHAPPY when you are eating.:CRAIGS ICE CREAM』
(食べているときはなかなか不幸な気分になれません:クレイグズアイスクリーム)

サラマクラクランにアイスクリームという曲があって、みじかいバラードだが妙に耳残りしている。
Your love is better than ice creamなんて取りたてていうほどの心象でもないなあ、と思いつつLong Way Downの反復を自然に口ずさんでしまう。

映画と小説と曲、三者には何の関連性もないが、アイスクリームを介して、記憶のなかでひとつになった。

人の世では、アイスクリームを食べることには蠱惑と禁忌がともなう。
それは、食べすぎてはいけないし、体調や体型に憂慮するところがあれば、罪悪感もある。ハーゲンダッツならば嗜好品でもあり、大人買いには、うしろめたさもある。

今日帰ったらアイスクリームを食べよう──と考える一方で、今日は食べるのを我慢しよう──と考える気持ちもある。
しかし長い一日から帰宅して、冷凍庫を開け、パイントをつかんで居間のソファにどかっを腰を下ろしたら、もうおしまいだ。

食べているときはなかなか不幸な気分になれない。
それもさることながら、日常、冷凍庫のなかの存在を忘れていて、フッと何かの拍子に思い出すことがある。
「そういやハーゲンダッツ買ってあったぞ」と。
それがなにかむしょうに幸せな瞬間だったりする。
この映画の「ふたつ食べるわ」を、自らの甘党に絡めて憶えている──という話。

と同時に、当時、中学生か高校生だったわたしは、素っ裸のミシェルファイファーと、彼女が膣に懐中しているシーンを微熱のように憶えている。デヴィッドボウイの使い方もさりげなく、ロジュバディムやイレーネパパス、ジョナサンデミなど、多数の内幕の大物たちのカメオがあった。また偶然であろうが、この邦題はとてもいい。
過剰とばかばかしさとスッとぼけたゴールドブラムが楽しくてずっと記憶にのこっている。

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津次郎