ネネットとボニのレビュー・感想・評価
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愛を知らなければ母性(父性)は目覚めない?
本作の主題は「愛を知らなければ母性(父性)は目覚めない」なのかなぁとぼんやり考えた。
両親の離婚によって別れて暮らす兄妹の久しぶりの再会から幕が開く本作は、ドニ監督特有のロマンティックな気怠さを湛え、淡々と進んでいく。19歳と15歳。母の死後、移動式のピザ屋で働く兄のボニが、大人への階段を上り始めているのに対し、寄宿学校を逃げ出してきた妹のネネットの言動はまだまだ幼い。そんなネネットが、行きずりの男の子供を妊娠しているとなると、兄でなくとも心配になる。彼女の行動は一貫して優柔不断で無責任だ。子供を産む気も育てる気もないのに、五ヶ月目に突入しており、堕ろすこともできない。よく考えもせずに里子に出す手続きをしたり、無鉄砲なやり方で自分で子供を堕ろそうとしてみたり・・・。彼女のこれらの行動は確かに愚かなことだ。しかし私は彼女を非難できない、彼女の愚かさは若さゆえの(経験の無さからの)判断能力の無さだということが解っているから。おそらく彼女は父親の溺愛から何不自由なく我儘に育ったのだろう。行きずりの男と関係を持ったのも、ほんの好奇心からだったに違いない。妊娠に気づき、戸惑い途方に暮れる彼女を守ってあげたくなる。周囲に理解ある大人の適切なアドバイスがないことの危険性。どうしていいかわからないまま病院にも行けずに五ヶ月たってしまった彼女が、兄のところに転がりこんだことだけは正しい判断だった。
兄は当初妹をうっとうしがるが、妊娠を知ると産婦人科に連れて行ったり、妹のために部屋を作ってやったりする。妹はそれらに反抗した態度をとるものの、心の底では兄に甘え、頼りにしているのは確かなようだ。
バスルームで白うさぎを飼う優しいボニは、思春期の青年らしく、近所のパン屋の肉感的な若妻に好意を持っている。毎夜エロティックな夢を見ながら、実際には声もかけられない内気な彼だが、理想と現実は違うことを知ることになる。街中で偶然出会った彼女にお茶に誘われるが、思わず彼女の下品な部分(くだらない恋愛観)を見てしまい、いたたまれなくなる。繊細で感受性の高いボニがとても好きだ。お腹の中の子供に一切興味を示さない妹に変わって、何の関係もない兄が徐々に父性に目覚めていく様が興味深い。
愛の無い相手と関係を持ったネネットと、愛を夢見て愛に破れたボニ。ネネットに母性が湧かないのも仕方がないのかもしれない・・・。
ネネットの子供を胸に抱いて満ち足りた表情を浮かべるボニと、タバコをふかしながら空虚な表情を浮かべるネネットの対比が鮮やかなラストシーンが印象的だ。
ネネットがこのまま兄の元を去らずに、共に生活し母性に目覚めていくという未来はありうるだろうか・・・?
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