「退屈することは無かったが・・・。」ニック・オブ・タイム といぼさんの映画レビュー(感想・評価)
退屈することは無かったが・・・。
事前知識は一切無し。TSUTAYAの棚にあったのが目についてジャケ買いならぬジャケ借りした映画です。
ジョニー・デップ演じる税理士の主人公が、謎の組織に娘を人質に取られて知事の暗殺を命じられるというストーリー。ホテルの警備員や知事についているSPすらも敵組織の人間で、誰を信用したら良いかが分からなくなる中、監視の目を掻い潜りながら、娘を助けるために必死に奔走する。
物語の設定自体は悪くないです。上映時間とほぼ同じスピードで時系列が進み、制限時間が迫るハラハラを観客も体験できるのは良かった。映画のあちこちでストーリーを盛り上げる展開や演出があり、約90分という比較的短い上映時間も、駆け抜けるように進むストーリーにマッチしていました。
しかし肝心のストーリーは矛盾や違和感のオンパレード。一番の違和感は「何故主人公が知事暗殺の実行犯に仕立て上げられたのか」ということ。
警備隊長や会場前にいるセキュリティチェックの警備員など、知事暗殺のために多くの会場スタッフが買収されている描写があります。事前に周到に準備されていた暗殺計画かと思いきや、一番重要な実行犯は当日に適当な人間を攫って恐喝してやらせるというのはいくらなんでもお粗末過ぎる。
ジョニー・デップ演じる主人公は、確実に知事を暗殺できる腕の立つ人物ということでもなく、政治に不満を持っていて知事を殺す動機があるということでもなく、舞台となるホテルを自由に動き回れるホテル関係者というわけでもない。本当にただたまたま目に付いただけの一般人。それ以上でもそれ以下でもない。これはいくらなんでも酷すぎます。
しかも、主人公以上に知事暗殺に適役な人物が作中に登場します。この映画のキーパーソンでもある靴磨きの退役軍人です。元軍人なので銃の腕も立ち、貧困生活の中で政権に不満を持ち、ホテル関係者なので従業員用の通路も通れるしホテルの構造も熟知している。これ以上に実行犯として適役がいるでしょうか。鑑賞中に何度も「何でこの人が暗殺の実行犯に選ばれなかったんだろう」と思いましたよ。
こういった登場人物の行動理由が理解できない脚本はストーリーへの没入を阻害し、作品全体に悪影響を与えます。今作の脚本は、上記以外の部分でも擁護できないレベルで矛盾や違和感が目立ち、作品全体の質を落としていたと思います。