「若きベルイマンの叫び」夏の遊び kkmxさんの映画レビュー(感想・評価)
若きベルイマンの叫び
初期の作品だけあり、荒削りで熱を感じさせる映画でした。
虚無的なベテランバレリーナ・マリーが主人公。新聞記事の恋人がいるも、鬱々とする中、送られてきた昔の日記を読むことで、長い回想シーンが始まります。
中盤までは追憶の中の当時の恋人ヘンリックとマリーのイチャイチャがメインなので、「これが若さか…フフフ…」みたいなテンションでボンヤリ観ていました。悪くはないが刺激もないといった印象。ただ、いたずら書きのアニメーションシーンはなんとも言えない味があり、胸に迫りました。
イチャイチャ描写の中、たまに差し込まれる、突然音が止みドアがバタンと開く等、存在を揺るがすような不安描写にはハッとされられます。ボーっとしているところを叩き起こされるような感覚でした。このカップルには不吉な影が迫っていることを示唆する演出に、ヤバそうだなと思っていると想像以上にハードコアな事件が勃発。その勢いで舞台は現在に。
ここからは主人公マリーがどう生きるか、虚無と人生の意味が中心テーマとなりました。非常に私好みの展開です。
事件後、自ら壁を作り、時間が止まってしまったマリー。そのような中、メフィストのような舞台監督が延々とマリーに説教。人生は無意味で運命を受け入れるしかない、みたいなことをのたまう。
因みにマリーには彼女に迫ったりするキモいおじがいるのですが、彼も似たようなことを言っており、本作の成人たちは揃ってロクでもないクズばかりです。
さらに恋人とのやりとりをした後、彼女の中に転回が訪れるのですが、正直、物語の筋としては根拠に欠けて甚だ説得力に欠けます。
今の恋人に対して過去の恋人の名を呼んだことで、過去に生きていることに気づくマリーですが、執着しているから過去に生きているのであって、気づきは第一歩でしかないです。
しかしながら、マリーの変容のシーンは、そんなの関係ねぇ!とばかりのパワーがありました。若きベルイマンが「虚無的な人生なんかゴメンだ!今を全力で生きるぜ!俺は俺を生きるんだ!」と叫んでいるように感じられ、少しだけグッときました。
全体的には瑞々しく、わかりやすく、希望を描いた作品だと感じられ、なかなかに観応えはありました。
それから、何気にヘンリックが飼ってるワンちゃんがかわゆい。常にヘンリックにテケテケ付いてきて、ムフフとなりました。