長い灰色の線のレビュー・感想・評価
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前半と後半でガラリと雰囲気が変わる、異色の映画
西部劇のみならず、アメリカン・ムービーの押しも押されぬ大御所、ジョン・フォード監督渾身のドキュメンタリー・・・と思いきや、前半は、これでもかと、愚にもつかぬボケやネタをぶち込んできて、観ていて腹立たしさを感じるほどだ。「愚にもつかぬ」と切り捨てたが、そこは制作年度の時代性や天真爛漫なアメリカ人の国民性を無視するわけにはゆくまい。さて、このいかにも能天気なコメディー映画が、ある出来事を契機として、途端にシリアスで陰鬱なドラマへと変容してしまう。見どころは、その精神分裂的な大変貌っプリだけだ、と言っては酷過ぎるだろうか?よほどのジョン・フォード信奉者に限ってのみ、おススメしたい映画だ。
愛と反戦を描き出すジョン・フォードの傑作
1955年公開、アメリカ映画。
【監督】:ジョン・フォード
【脚本】:エドワード・ホープ
【原作】:マーティ・マー、ナルディ・リーダー・カンピオン〜『Bringing Up the Brass』
主な配役
【マーティ・マー】:タイロン・パワー
【マーティの妻メアリー・オドンネル】:モーリン・オハラ
【キティ】:ベッツィ・パーマー
【マーティの上官ハーマン・キーラー】:ワード・ボンド
1.さすが、ジョン・フォード!
『怒りの葡萄』、『わが谷は緑なりき』、『静かなる男』で3度アカデミー監督賞を受賞している。
また、『駅馬車』はじめジョン・ウェインを主演に起用した西部劇でも知られている。
アメリカを代表する監督だが、アイルランド系移民の二世である。
本作の主人公で、原作者でもあるマーティ・マーもアイルランドからの移民だ。
士官学校を舞台にしたストーリーで、アクションは皆無で淡々とした人間ドラマだ。
アイルランド人としてのプライドや、望郷の念が端々に感じられるが、コメディ要素や主演のタイロン・パワーによって、嫌味なく落とし込まれている。
さすがだ。
2.さすが、タイロン・パワー!
ウェストポイント陸軍士官学校の食堂に雇われたアイルランド移民のマーティ・マーを演じたのはタイロン・パワー。
私の亡き母が、好きだった俳優だ。
本作公開から3年後、撮影中に44歳の若さで亡くなった。
本作の前半は、コメディを得意とするタイロン・パワーらしさが全開だ。
チャップリンやキートンばりのシーンが連発され笑える。
食堂をクビになったマーティは、懲りずに再雇用され、ケンカ騒動の現場に居合わせた闘技主任に見込まれ、助手になる。
そして、なんと30年近く(トータルでは50年!)ウェストポイント陸軍士官学校に勤める。
ジョン・フォード作品の常連であるモーリン・オハラ演じるメアリーとの出会いから別れ、長男誕生、教え子たちとのふれあい、、、
タイロン・パワー41歳、モーリン・オハラ35歳、
まさに脂の乗った俳優たちの名演だ。
ラストシーンでは不覚にも涙腺が緩む。
さすがだ。
3.アメフトの歴史的試合
ひとつ興味深かったのは、アメフトのシーンだ。
士官学校チームはノートルダム大学と試合をおこなうが、相手のパス攻撃に翻弄され敗れてしまう。
この試合こそが、
いまや、アメフトの醍醐味である「フォワードパス」が、戦法として準備され試合で実践された最初の試合とされていることだ。
ランとパスを織り交ぜた現代アメフトのオフェンスはこの試合から始まったらしい。
たぶん?
アメリカ人にとっては、「ああ、あの試合ね」なのかもしれないが、
相手のパス攻撃に困惑し混乱する士官学校チームを見て、最初はよく理解できなかったが、鑑賞後にWikipediaに教えてもらった。
勉強になりました(笑)。
4.まとめ
またまた、知らざる名作に出会った。
138分の作品、エピソードてんこ盛り、縁の下の力持ちにスポットをあてた伝記映画の傑作。
家族、友人、教え子たちとの愛、
決して直截的ではないが反戦、
ジョン・フォードのフィルターを経て受け取った。
これだけの作品がなぜポピュラーではないのか考察を試みた。
◆著名な映画賞と無縁だったこと
◆派手なアクションや戦闘などがないこと
◆知らない人の伝記であること
◆ヤマ場、が分かりにくい(あるいは、ない)こと
ではなかろうか。
私は涙したのだから、ラストがヤマ場、で良いか(笑)
母の好きな俳優加点を0.5
あわせて☆5.0
士官候補生に慕われていたマーティ
崇高な精神に満ち溢れた
ここ最近ではなかなかお目にかかれなくなった、
意味のある作品。
CGによる見たことも無い映像も大切だと思うが、
俳優による台詞、演技こそが、映画の内容のほとんどです。
トップガン2でも感じましたが、
もしかしたら死ぬかもしれない職業など他に無い、
そのうえで、任務を遂行していく、
その気高い精神が、戦場ではなく、日常の生活を通じて、淡々と描かれます。
自らを犠牲にして、家族を守ること、自国を守ること、
この事がいかに大切か、
ジョン・フォードは主人公は勿論、兵士たちひとりひとりを尊敬の眼差しを持って描いています。
U-NEXT でたまたま観たのですが、
怒りの葡萄や、いとしのクレメンタイン等、初期の名作に匹敵する作品だと感じました。
延々と会話だけが続く躍動感に欠ける士官学校を描く作品
総合45点 ( ストーリー:60点|キャスト:50点|演出:30点|ビジュアル:65点|音楽:65点 )
これは実在した士官学校の教官の軍曹の話だそうで、士官学校の軍曹といえば「愛と青春の旅立ち」でアカデミー助演賞をとったルイス・ゴセット・ジュニアがまず頭に浮かぶ。ここでも軍隊に半生を捧げて陸軍士官候補生を鍛える泣く子も黙る鬼軍曹が登場するのかと思いきや、なんのことはない軽い喜劇で始まる。喜劇部分も古い映画だけあって演出も古くてそんな面白いものでもないし、訓練も日常の描写も士官学校らしい真剣さが見られない平凡以下なもの。
後半になると戦争があったりして真面目な話になってくるけれど、あれがあった・これが起きたというように出来事は家族や士官学校関係の人々との間に交わされる会話の中で説明されるだけで、途中には多少のいい話もあったけれど、直接の描写が殆どないためにのめりこめない。結局のところ、二時間越えの作品の中で、士官学校周辺の人々の会話を描くことを数十年分にわたって延々と続けられただけ。しかも場面は殆ど士官学校の敷地と家の中のみ。マッカーサー・パットン・ブラッドレーといった大物軍人の名前も出てくるが、それも卒業生として名前が出てくるだけで本人の登場はない。
これだけ躍動感に欠ける作品だとは思わなかったし、映像の動きに頼らずとにかく終始会話だけで物語を作るという演出が作品をつまらなくしている。そのためもあってか、登場人物にも魅力を感じない。
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