劇場公開日 1970年9月25日

「プロデューサーが黒澤明に捧げた作品か?」トラ・トラ・トラ! KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0プロデューサーが黒澤明に捧げた作品か?

2021年4月7日
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鑑賞方法:DVD/BD

今年、ノンフィクション
「黒澤明VS.ハリウッド」を読んだ勢いで
レンタルDVDにて再鑑賞。
映画館で観た後は、幾度も
短縮されたテレビ放映版を観ていたせいか、
記憶のないシーンも多く、
意外と新鮮に観ることが出来た。

そして当然ながら、黒澤明だったら
どう撮って、どう編集していただろうと
想像しながらの鑑賞になった。

日本側シーンは、ほぼ黒澤の脚本に基づいて
撮影されたと言われているためか、
俳優陣の演技とその演出・描写を除けば、
黒澤作品といっても良い位の
重厚な出来と感じた。

しかし、米国側のシーンでは、
もし完全主義者の黒澤が総監督として
アメリカ側の撮影フィルムにハサミを入れる
ことの出来る立場だったら、
たとえ結果的に見事に撮影出来たシーンで
あっても、複数の角度から撮った同じ場面を
別のシーンとして使う等の編集は
行わなかっただろうと思う。
それは、繰り返される魚雷投下や
飛行場の空襲シーン等だ。
また、間延びし過ぎた戦闘機の空中戦シーンも
大幅カットしていたのでは、
などと想像もした。

ノンフィクションを読んで、
この映画での黒澤降板の真相は、黒澤自身、
ハリウッドの制作スタイルとの違いは
感じつつ、自分の意のままにならないのでは
と不安のままことが進んで行った末の
精神的破綻の結果だったと私は思うが、
プロデューサーのエルモ・ウィリアムズは、
最後まで黒澤への特別の想いを
持ち続けていたのではないか。

それはほぼ黒澤の脚本通りだった
日本側のシーンと、
日米の双方に平等な扱いを感じるからだ。
特に日本人将校の描写の扱いには
畏敬の念すら感じるが、
これは日本側への配慮というよりも
黒澤明への意識だったのではないだろうか。

だから、暁の発艦シーンと
ハワイの田園上空を飛ぶ日本機と
そのシルエットを同時に映した素晴らしい
場面などは、黒澤への意識の昇華として、
エルモにとっても満足出来たのでは
無いだろうか。

私は「史上最大の作戦」に比べ、
「トラ・トラ・トラ!」の方が
ドラマ性をより高く感じる分評価するが、
この作品は、キネマ旬報のベストテンでは
「史上最大の作戦」に比べ、
誰の一点も入らない惨敗だった。
戦争映画が評価されにくい雑誌とは言え、
黒澤明監督作品だったら
違う評価にもなったのではと、
この作品の不遇さを嘆かざるを得ない。

しかし、きっとエルモはこの作品を
敬愛すべき黒澤明へ捧げるつもりで、
最後はプロデューサーとして
まとめきったのではないかと
勝手に想像した。

KENZO一級建築士事務所