「晩年のマックイーン辞世の句」トム・ホーン Masa_king01さんの映画レビュー(感想・評価)
晩年のマックイーン辞世の句
最近、メディアを賑わしている若手学者が「高齢者は老害化する前に集団自決するべき」と発言して物議を醸している。
そこに便乗して中学生らしき少年も「老人は邪魔。そのような社会のシステムづくりをしたい」と件の学者に相談するYouTube動画も視聴した。
自分ももしかすると中学生時代、いや結構な年齢になってからもそのようなことを考えていたかもしれないと思うし、いま数十人の若手の部下が自分をそのように見ているかもしれないなとも思う。
こんなご時世に観たからだろうか、「トム・ホーン」のスティーブ・マックイーンがやけに心に沁みた。
血で血を洗う西部の開拓時代も「いまは昔」となりつつある19世紀末。
法が人を裁くといえば聞こえがよいが、ロジックをもてあそぶ人々のゲームによって、古き良き時代を象徴する人物が、新しい時代を迎えるための人柱にされただけのことである。
マックイーン演じるトム・ホーンもそのことは重々承知の上。
処刑に直接手を下したくない人間たちが考える処刑台のシステムを説明され、「それじゃ自殺じゃないか」とあきれるマックイーンの淡々とした表情に、肝の据わった男の格好よさを感じた。
「上司の指示でやった」「自分に責任はない」という糞みたいな組織のはびこる現代を予言したかのような処刑台のシステムである。
映画のストーリーそのものもそんな趣旨であるように思う。
脱獄を試みるもあえなく捕縛されるマックイーンの走り姿には、往年のそれは感じられずひたすらみっともない。
それをあえて見せた上で、「ちょっと悪あがきして困らせてみるか」然として再び投獄される姿も粋であった。
処刑される寸前まで幾度となく遠くの山並みを見つめる姿に、自由気ままに生きてきた頃への憧憬を感じて他人事とは思えなかった。
落とし蓋が落ちる寸前の最後のセリフは、時代の表舞台から去りゆくマックイーンからの最高の皮肉に聞こえた。
「おい、そこの役人たちがみんな真っ青になってるぞ」