「物語の省略が多い」ドクトル・ジバゴ(1965) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
物語の省略が多い
総合80点 ( ストーリー:80点|キャスト:80点|演出:75点|ビジュアル:75点|音楽:75点 )
若い頃に初めて観た時は、ロシア文学原作らしい重々しさに少々辟易したし退屈もした。しかし年齢を重ねて改めて観てみると、なかなか良い作品だと思えた。ロシア革命という激動の時代の中で、詩を愛し女を愛した医師の生涯が綴られる。
貧困に苦しむ人々がいて贅沢を謳歌する貴族階級がいて、両者の間には解消が出来ない対立が生じている。支配の反動の革命で行き過ぎた抑圧が行われ社会が混乱する中で、1人の男と彼の家族も時代のうねりに巻き込まれていく。反体制運動・圧制・逃避行・パルチザンによる拉致と、時代の厳しい変遷が描かれる。ただし制作当時の背景もあって、虐殺の直接的な残虐描写は控え目でありそこは緩めで不満が残る。
その中には革命のためには無実の人の命を含む他の全てを犠牲にする狂信的な活動家・高い地位を使って好き放題する者・共産主義に染まって体制の価値観のままに人の権利を奪う者・山賊のように好き勝手をするパルチザン等、当時の時代が生んだ人々の行動は興味深い。
ロシアの大地に当時の社会を再現した映像も上出来。だが建物内部まで凍りついた美術は質感がちょっとわざとらしい。
物語の結末には不満が残った。モンゴルに逃げたララはどういう生活をしたのか。何故彼女は娘とはぐれモスクワにいるのか。パリに逃げたジバゴの家族はどうなったのか。ジバゴは何故モスクワに戻りそこでララも家族も探そうとはしなかったのか。最後のほうは重要なことが一気に省かれた気がした。他にも色々と省かれているのか説明不足な場面があるように思える。
またジバゴの詩についてどんなものなのかを詠んでもいいのではないか。彼の詩が彼を詩人として激動の時代の物語に重要な役割を果たしているのに、ただ良い詩だったとだけ言われてもこれでは実感がわかない。
そんなわけで物語の省略が多いので減点。それでも時代の流れに翻弄されながら生きた人々と、当時の時代のことが面白い作品だった。