劇場公開日 1998年11月14日

「頭の中にまでカメラはあるまい それはプライバシーこそ人間の尊厳だという言葉であったと思います」トゥルーマン・ショー あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

5.0頭の中にまでカメラはあるまい それはプライバシーこそ人間の尊厳だという言葉であったと思います

2021年12月28日
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鑑賞方法:DVD/BD

2021年の年末
なにやら日本でも「未来日記」というリアリティショーが作られて、Netflixで全世界に配信が開始されているそうです

もともとは2000年頃、バラエティー番組の1コーナーとして同名のリアリティショーがあったことを覚えている人もいるでしょう
自分も夢中で視たくちです

そのコーナーの為に作られた曲のサザンオールスターズのTSUNAMIや、福山雅治の桜坂、GLAYのとまどい/SPECIAL THANKSと、立て続けにミリオンセラーの大ヒットがでたほどの超人気のコーナーでした

リアリティショーはテレビの黎明期からあったそうです
隠しカメラで一般人の生活を放送する今に続く本作のような番組は、1992年のMTVの「リアル・ワールド」が始めたフォーマットだといいます
それが大人気となって世界中で模倣されたそうです

20年前の「未来日記」も、その模倣番組のひとつなのだったのでしょう

本作はその2年前の1998年の公開作品
リアリティショーの非人間性を訴えることがテーマであるところが、本作の凄いところです

リアリティショーは、その後もテレビの人気のジャンルとなって、その「未来日記」のように20年以上経った今も世界中で繰り返し作られています

しかし、近年イギリスではリアリティショーが過激化して3人もの自殺者を出したといいます
日本でも、2020年5月にキー局製作のリアリティショーの女性出演者が自殺した痛ましい事件は記憶に新しいことです

テレビ黎明期から存在するジャンルというのだから、よほどテレビというメディアとの親和性が高いのだと思います
リアルタイムというのは映画では有り得ないからです

ネット配信なら?
基本オンデマンドですが、リアルタイムもありテレビに近い性質を持つところは、ネット配信もリアリティショーに性質が合うメディアなのかも知れません

だからネット配信でも、リアリティショーの出演者が自殺した事件が2020年8月にあったといいます

プライバシーを剥ぎ取られ放送されてしまう
シナリオと実生活が融合してしまう
そこに人間の尊厳はあると言えるのでしょうか?
動物園の檻のなかと何が違うのでしょうか?

しかし、それは出演者の同意の上でのこと
一体何が問題なのだ?
そういう向きもあるかと思います

ユーチューバーはどうでしょうか?
自ら進んで私生活を垂れ流し配信する人物もいるらしいではありませんか

チャンネル登録者数やページビューを上げる為なら、私生活の垂れ流しも、迷惑行為でも何でもあり
つまるところ、有名になりたい、金を稼ぎたい
その為に人間の尊厳を切り売りしているとは言えませんでしょうか?

確かにリアリティショーは面白い
しかしそれは、出演者の人間性を抑圧して実現されているといえるのではないでしょうか?

他人の人間性を抑圧して喜ぶ
出演者の人間の尊厳を剥ぎ取り、それを消費して笑う、泣く、怒る
そういうことです

コメディならそれもありでしょう
当然です
でもそれは現実とは別物であると観衆と出演者は相互に理解して、芸として観ているのです

リアリティショーにはそのような約束事が曖昧なのです
というか、それをわざと視聴者に隠しているからリアリティショーなのです

人種や民族、肌の色、性別、LGBT といったことをネタにして同じことをしたら、どれほど重大かつ深刻な人権侵害になるか
現代の人間なら、誰だって容易に想像できます
コメディでも無理です
現代のプロのコメディアンなら慎重に避けて通ることです

リアリティショーとコメディは、一体何が違うというのでしょうか?
リアリティショーはその様な人権侵害の自覚もなく、現代でも未だに漫然とそれをやっているのです

本作は20年以上も前に、それを訴えていたのです
リアリティショーの持つ問題の本質を突き詰めて警告していたのです

頭の中にまでカメラはあるまい
それはプライバシーこそ人間の尊厳だという言葉であったと思います

2021年の「未来日記」はまだ視ていません
このような懸念を払拭しているような内容であることを願うばかりです

それ以上に深刻なのはテレビのニュースかもしれません
本当のリアリティだけのはずなのに、インタビューされている街の人が劇団員だったりしているのです
恐ろしいことです

それって、最早私達は本作と変わらない世界にいるという事ではないでしょうか

あき240