劇場公開日 2022年3月4日

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「う〜ん“Tears for Dolphy”よ!」テオレマ osmtさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0う〜ん“Tears for Dolphy”よ!

2022年4月1日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

パゾリーニは、映画館で集中して観ないとダメだろうと思ってたが、やっと観ることが出来た。
まさに現代(と言っても60年代だけど)の寓話。
なので寓話として観ないと難解な映画と思われるかもしれない。
テレンス・スタンプの存在自体、まさに寓話の体現なので、ここで乗り損ねると最後まで???となってしまうだろう。
ブルジョワの家族全員(&女中)が心の奥深い欲望を炙り出され、既存の倫理観や固定観念から解放されるが、訪問者のテレンス・スタンプが去ってしまった後、その喪失感から崩壊や機能不全へと陥っていく。
奇跡を起こして、聖なる復活を願うかのような女中(労働者階級)以外は。
カトリックのマルクス主義者と自称してたらしいパゾリーニという男の風変わりな寓話として観ていけば、割とシンプルな話だ。
そして寓話なので、いくらでも深読みも出来る。このあたりが映画マニアに魅了され続けている所以かもしれない。

それにしても、60年代なのに古臭さが全くない。全く退屈にもならない。
俳優陣が、とにかく魅力的だ。
特にシルヴァーナ・マンガーノの妖艶な色気は、下手するとステレオタイプ的なお笑いコントネタにもなりかねないが、やはり、この人の退廃的な官能美は本物だ。
テレンス・スタンプに関しては、もっと色々と出来たとは思うけど…
役柄としては旧約聖書の預言者だったらしいが。
『世にも怪奇な物語』のような悪魔的な魅力全開で発散して欲しかったかなあ。ここはやや残念。
むしろ、全くマークしてなかった女中役のラウラ・ベッティが本当に素晴らしかった。彼女なしでは、この映画は成立しなかったと思う。

そして音楽も良かった。
まずオープニングのタイトルバックでテッド・カーソンの「Tears for Dolphy」が流れて来て予想外の選曲にグッと来てしまった(ラウラ・ベッティが涙を流しながら土に埋められる際にも流れていた)
それにモーツァルトのレクイエム。
そのレクイエムが引用されたモリコーネの不協和音。これがまた良かった。永遠の安息と程遠いブルジョワ家族たちへの皮肉なテーマ曲か。

しかし、ラストはちょっと唐突すぎて、思わず「マジか?」と呟いてしまった。
出来れば、心象風景のようにインサートされていた砂丘の砂風をラストでも流して、カメラの望遠の向こう側で、砂漠の預言者の如くテレンス・スタンプを登場させて、最後にもう一度「Tears for Dolphy」流して欲しかったなあ。

本当にこの時期のイタリア映画は面白い作品が多いが、どういうわけかビデオで観ると全然ピンと来なかったりする。
『王女メディア』がまさにそうだったが、これも映画館で見直せば面白いかもしれない。本当に今回のリバイバル上映は感謝感謝である。

尚、あの頃のフェリーニの『甘い生活』やアントニオーニ『情事』など、戦後の物質的な豊かさとは裏腹に荒涼とした心を描いたイタリア映画が苦手な人には、この作品は殆どお勧め出来ない。
テレンス・スタンプや、シルヴァーナ・マンガーノの熱烈なファン以外は。

osmt