「消費社会を50年代から批判していたパゾリーニ」テオレマ talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
消費社会を50年代から批判していたパゾリーニ
豊かなブルジョアの家庭で行われたパーティーになぜか来ていた美しく若い青年。なぜか数日間滞在する。まずメイドのエミリア、次にブルジョア・ファミリーの息子のピエトロ、そして母親のルチア、その夫パオロ、最後に娘のオデッタの順番で青年と関わる。青年はただ居るだけ、何も言わない。自分から行動を起こしたりもしない。でも目の前の相手が何を望んでいるのか全部わかっているようだ。そして一人一人の望みを全て叶えてしまう。相手と寝ることで、相手の苦痛を和らげることで、お茶目な格好をしてカメラの被写体になることで、ボクシングの真似事してじゃれることで。彼はなぜかいつも、股を広げて座っている。とても意図的に見えた。青年はなぜかその家から急に去ることになり彼の不在が家族とメイド、彼と関わった5名の行動を変容させてしまう。突然の到来と突然の不在。
ブルジョアの人間でないエミリアは彼の不在以降どんどん美しくなり髪は緑色になりバジルのような葉しか食べず、病にかかった幼子を治癒し空中浮遊し、最後は生きながら土に埋められて水たまりができるほど沢山の涙を流して「聖人」になることができた。ブルジョアの家族たちは聖人にはならない。家を出て現代絵画の世界に入るピエトロ、ルチアは服と雰囲気が青年に似た若い男に始まる男漁りをするようになり、オデッタは右手をぎゅっと握りしめたまま硬直状態で病院へ運ばれる。一番苦しいのは全裸の父親。労働者のために善行を行ったのかも知れないのに苦しみ続ける。
モリコーネの音楽というより、モーツァルトのレクイエムがとても効いていた。
パゾリーニの映画は初めて見た。顔のアップの多用や台詞の少なさなど想像していたより面白いと思った。でも詩人や文筆家としてのパゾリーニをもっと知りたいと思った。今年はパゾリーニ生誕100年。生きていたら今の世界を見てなんと言っただろう。
おまけ
テレンス・スタンプ、「ラストナイト・イン・ソーホー」に銀髪の男性として出ていたようだがちゃんと覚えてない!いつか確認しよう。