劇場公開日 1996年7月6日

「竜巻の中心で見たもの」ツイスター R41さんの映画レビュー(感想・評価)

未評価 竜巻の中心で見たもの

2025年11月28日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ツイスター──竜巻の中心で見たもの

アメリカという大陸は、竜巻という名の怪物を抱えている。それは、予兆なく現れ、すべてを引き裂き、そして消える。人間にできることは、地下室に身を潜め、嵐が過ぎるのを待つことだけ。1996年、科学はその怪物に挑んだ。「警告まで3分」──それが「15分」になるだけで、どれほど多くの命が救われるのか。この映画は、そのわずかな時間をめぐる戦いの物語だ。

ジョーは幼い頃、竜巻に父を奪われた。その記憶は、彼女を執拗に竜巻へと駆り立てる。科学の進歩は、彼女にとって父への弔いであり、逆境を乗り越える試練でもあった。ラスト、革ベルトで身体を固定し、竜巻の中心を見つめるジョー。その眼差しの奥に、かつての父の姿があったのだろう。言葉にならない対話が、あの沈黙の中にあった。

一方で、物語にはもうひとつの別れがある。ビルと婚約者メリッサ。竜巻に挑む彼らの狂気を前に、メリッサは言う。「I say goodbye. But I’m not sad, why.」彼女にとって、ビルは異世界の住人だった。その情熱を、彼女は幻想という眼鏡越しに見ていた。だが、最後に気づく──その世界は、彼女には決して触れられない場所だということ。別れは悲しみではなく、理解だった。

日本でこの映画を見たとき、私は当初「面白そう」とは思えなかった。理由は、自然観の違いにある。日本には台風がある。それはゆっくりと近づき、勢力を増し、やがて衰えていく。その破壊力は竜巻に劣らないが、予測可能だ。しかし、竜巻は違う。突如として現れ、瞬時にすべてを奪う。その全容を目撃できる現象は、アメリカ人にとって最大の恐怖であり、同時に最大の魅力なのだろう。

『ツイスター』は、単なるパニック映画ではない。それは、自然と人間の対話であり、科学と情熱の物語だ。そして、言葉にならない余白が、最後に深い感動を残す。竜巻の中心で、ジョーは父に何を語ったのか──きっと、「ようやく竜巻に一矢報いたわ」と言ったのかもしれない。

R41
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