劇場公開日 1954年3月12日

「人生初の映画にお勧め」ダンボ(1941) pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0人生初の映画にお勧め

2023年5月10日
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鑑賞方法:DVD/BD

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ウォルト・ディズニー・プロダクションが贈る4本目の長編アニメ映画。
(64分なので中編と呼んだ方が良いだろう)

ディズニー社は創立当初から「キャラクターアニメーション」という理想を掲げている。この場合の「キャラクター」は「個性。性格などを含めた本質」の方の意味だ。
登場人物の性格付けやバックヤードを丁寧に設定し、心情や行動の根拠を反映させる。
キャラクターアニメーションを重視する以上は、そのキャラクターを深掘りするストーリーも充分に練り上げられる。
今の時代、良作アニメならば当たり前の事ではあるが、1930年代というアニメ創世記、まだほとんどアニメーション作品が5〜15分の短編だった頃にその理想を掲げて貫く事は大変な価値があったと思う。
その理想は「白雪姫」の大成功に繋がり、続く「ピノキオ」「ファンタジア」「ダンボ」にも引き継がれる。

さて「ダンボ」だ。
子供向け作品として本当に秀逸だと思う。
編集による無駄なシーンの削ぎ落としも潔く、大変テンポの良い展開に仕上がっている。

まずは冒頭がめちゃくちゃかっこいい。
レシプロエンジンを響かせて登場する編隊のシルエットが浮かび、勇ましく渋い声のナレーションが流れる。
「吹雪、暴風にも負けず
山を越え、稲妻をくぐり抜け
真実のみを実行する彼を止めるものはない」(かなり端折ってます。英語&字幕で観てね。日本語吹き替えは作中音楽のいずれも、良さがまるで伝わらないから)

と思ったら次の瞬間には、厳かで勇ましい雰囲気から一転して和やかで明るい曲調に変わり、彼らの正体判明。
実はコウノトリの配達員さん達であった(笑)
曲はそのままスムーズにLook Out For Mister Storkへ移行。

描かれる母子の深い情愛。無償の愛。
耳が極端に大きいからというだけでFreak扱いされ、象仲間から迫害される幼いダンボ。
ダンボの境遇に義憤に燃えて、次々と状況打破のアイデアを考えては実行してくれるティモシー。
情に脆くダンディで気のいいカラス達。
外見の異質さをポジティブに捉えて、個性を輝かせるダンボ。
その為に必要なのは「勇気」だと、本作は子供達に教えてくれる。
胸打たれるシーン、心が熱くなるシーン、スカッと爽快なシーン。
それらが実によく構成されている。

30分程度の幼児向け物語を集中して見られるようになった子供の、次のステップアップとして最適の作品だと思う。
知能面にも情緒面にも大変良い影響を与えるだろう。
pink elephantの映像はダダイズムやシュールレアリスムを盛り込んでいる。大人はわざわざ理性を抑え込まねばダダイズム作品を鑑賞出来ないが、幼児は苦もなく「理性を通さずに」作品を受け止めるであろう。

さて、本当はここでレビューを終えたいが、下記に言及せねばならない現状を哀しく思う。
こんなに素晴らしい名作が、昨今のコンプライアンス云々によって激しい自主規制対象になっている事を懸念する。

ダンボではカラス達が黒人のステレオタイプな描き方として不謹慎狩りの対象に。
また、Song of the Roustabouts(テントを張っているシーンの曲)辺りの労働者の描かれ方も差別的だと批判されるでしょうね。
(このシーン、めちゃくちゃ大好きなんだけどなぁ。辛い時に自分を鼓舞するには「ベーコンエッグを食べれば元気」が我が家の合言葉(笑))

ステレオタイプな描き方は「当時は自然なこと」だった。
フリークス扱いされたダンボを容姿外見関係なく丸ごと愛し、彼の個性を見出してありのまま長所に転ずる、という差別意識払拭のテーマを込めた本作に人種差別の意図があったはずがない。
「不適切だ!」との怒りで優れた作品を闇に葬り去るのではなくて
「人類の過去に、どのような差別意識がまかり通っていたのか」という「生きた史料」という眼で受け止める事は出来ないものだろうか。
子供達も馬鹿じゃない。
隣で大人が一緒に視聴しながら、さまざな学びを語り聞かせてあげれば「過去の姿」と「望ましい未来」についてきちんと考えることが出来る。

「臭いものに蓋」や「悲しい歴史をなかったことにする」のではなく、
傷や痛みの記憶を風化させずに次世代に伝えていく事こそが、同じ過ちを繰り返さないための人類の叡智だと考える。
「ダンボ」という素晴らしい作品を、いつまでもオリジナル映像のまま鑑賞する事が出来るように願ってやまない。

pipi
NOBUさんのコメント
2024年1月30日

今晩は
 温かきお言葉有難うございます。
 このサイトでこんなコメントしてよいのかな、と思いつつ弊社のフォークリフトのエンジンの不正問題が発覚したのが、23/4でした。今だに出荷規制は解けていません。で、今回の件は先週末に一部の人間には情報が来ましたが、今日国土交通省が弊社の工場に入った事と、社長からのメッセージが発信されました。そこには”下を向かず、皆さんの仕事を邁進してください。”という内容でした。
 弊社のエンジンの品証部長には”思い詰めるな!”と言うメッセージを早朝に送りつつ、今日の午後はお詫び行脚でした。
 けれども、これを機に新製品開発サイクルの見直しをして行くべきだなと(今日、偶々、労働組合への会議が有ったので)説明したところです。(負けず嫌いなので、絶対に負けないぞ!、という思いと共に弊社の美点である誰が責任を負うのかではなく、何でそのような企業体質(ガヴァナンス)になってしまったのか。)を振り返る良きタイミングだよな!とは部下に言っています。(とはいえ、きついっす。)では。

NOBU