「ああ、凄かった! それだけで終わってしまうのがなんとももったいない」タワーリング・インフェルノ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
ああ、凄かった! それだけで終わってしまうのがなんとももったいない
サンフランシスコにそびえたつ超高層ビルグラスタワー
高さ550m、138階建てとの設定だ
どのくらい高いかというと
全米一高いビルは建て替えられたNYのワールドトレーニングセンター541m、141階建て
二位はそれまでの一位でシカゴのウィルスタワー
というよりシアーズタワーという昔の名前の方が通りが良い
こちらは1974年竣工、108階建て
911で崩壊したWTCのツインタワーより高かった
このビルが本作のモデルだろう
外観もなんとなく似通っている
つまり21世紀の現代でも全米一の高さのビルという設定だ
本作のグラスタワーの場所はサンフランシスコのモンゴメリー通りと消防士が話すがその名の通りは実在しない
映像から見る限りフィナンシャル地区のカリフォルニア通りとドラム通りの北東角、今はハイアットリジェンシーホテルが建っているところ
ここに設定されているようだ
ケーブルカーのカリフォルニア線の始発停留所の真ん前
チンチンとケーブルカーの鐘の音がしている
東京で言えば大手町の角位のイメージか
正にサンフランシスコのど真ん中だ
今現実にここに建っているビルはハイアットリジェンシーホテルで、20階の高さしかない
現実のサンフランシスコで一番高い建物は2017年完成の61階建てのビルとのこと
本作から半世紀近く経っても本作の半分の高さに過ぎないのだ
このサンフランシスコの中心で全米一の超高層ビルが大火災になる
物語としてはそれだけだ
パニック映画なのだから、二つのやり方がある
一つはパニックをあくまでメインの登場人物を中心に描くやり方
もう一つはグランドホテル形式の変形でパニックを縦糸に多数の登場人物が横糸でタペストリーのように沢山の物語をつむぎだして大団円でそれぞれの物語が閉じられて終わるやり方
本作はどちらか?
どちら付かずの中途半端であった
前者はニューマンの設計士とマックイーンの消防士の複線で、後者はきら星のスターで
製作者としては全部のせなんだから満腹感が違うだろうくらいに考えていたのかもしれない
果たしてでき上がった本作は、大スターと巨額の経費をかけたセット、見事な特撮とスタント
そして大スター達が織り成すドラマで構成された
パニック映画の決定版となった
確かに面白い、大ヒットもした
グランドホテル形式の個々のドラマに面白い部分もある
特にフレッド・アステアを巡るお話は心に残る
劇中で歌われるモリーン・マクガバンの大ヒットした主題歌も素晴らしい
しかしそれだけだ
ニューマンとマックイーンは結局群像の一つに過ぎなくなってしまっている
グランドホテル形式の個々のドラマも薄い
クライマックスも物凄い迫力だがカタルシスはないのだ
密室の様で密室でないお話の展開が緊迫感をそいでいるのかもしれない
ああ、凄かった!
それだけで終わってしまうのがなんとももったいない
ポセイドンアドベンチャーのような牧師を巡る深みのある物語や、神や人間の運命に関する胸を去来するものはどこにもない
これ程の超大作なのにラストシーンで超高層ビルを建てるならもっと真剣に消防の意見を聞くべきだ、そんな話で本作はエンドロールを迎えてしまうのだ
これではB級映画の後味しか残らない
なんとも薄ぺらいのだ
例えばバベルの塔に見立てた神と人間の対立の視点とかを入れ、様々なドラマがクライマックスで昇華するようなものにできなかったものか?
もっとなんとかならなかったものだろうか?
しょせんパニック映画だからこんなもので良いのだろうか?
ともあれ、パニック映画のジャンルが本作を持って一旦終わったのは、本作を上回るような作品は予算的にも内容的にも無理だということだろう
パニック映画は、もっとスケールを大きくした災害映画として仕切り直すことになるが、映画としての構成は前者のあくまでもメインの登場人物を中心として展開されグランドホテル形式の作品は見かけなくなっていく