劇場公開日 1976年9月18日

「ちょっと時代を感じさせるこの映画のどこがいいかって?」タクシードライバー マツドンさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5ちょっと時代を感じさせるこの映画のどこがいいかって?

2019年12月29日
PCから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

この映画が名作として名を残しているのは、狂気を描き、みごとに描き切れている点です。
この映画に拒否反応を示す人は、そこが受け入れられないのでしょう。

普通、映画は正義を描き、そこに共感を生み出します。たとえ任侠ものであっても、義理や人情というある意味もっともプリミティブな価値のために、自己犠牲すらはらう正義に憧れさえ誘うのです。

でも、この映画は違う。倒錯、異常、狂気。それを、こんな形で、映像として描けるんだ、描いていいんだ、と10代半ばで初めてこれを見た私は、ブッ跳んだ記憶があります。
もちろん、狂気を単に狂気として、つまり、あっちの世界に行ってしまった人として描けば、それは理解されない。でも、こっちの世界へたぐり寄せすぎれば、それは狂気ではなくなる。きわどい線を、離れ業で描いてこそ映画になる。
マグナム44を小道具としてクールに描き、商業映画として成功させたのが、この映画です。
そして、約40年の月日を経て再び見て、その驚きにまちがいがなかったことが実感できました。

狂っているのは、トラビスだけではありません。狂った殺人を犯したトラビスを、ヒーローとして誉めそやすマスコミ。麻薬、売春、殺人、強盗・・・、犯罪に満ちあふれた社会。ニューヨークが、すでに狂っている。

そもそも、トラビスの狂気は、どうして生まれたのか。
貧困に生まれ育ち、学はなく、海兵隊としてベトナムで闘い、PTSDを背負い込む。コミュニケーションを上手くとれず、人から理解されず、常識や人の気持ちを理解できない。それでも、なおかつベトナム戦争におけるアメリカの正義を信じ続けている。だから、ニューヨークの堕落を、不正義を憎んでいる。
まさに、狂ったトラビスこそが、被害者に違いない。そこに、狂気へのいくばくかの共感が生まれる。その点は、時代を共有していないと理解できない点かも知れません。

事件後に、ベッツィがトラビスに会いに来る。トラビスには穏やかな笑顔が。
それは、唯一の救いです。
でも、何も変わらない。孤独。貧困。ニューヨークの狂気。
きらびやかなネオンサイン、都会の夜に似合うサックスの音色、それらとの対比が格差を際立たせます。
そして、トラビスは、何事もなかったかのように、夜の光の中に吸い込まれていく。ニューヨークも、何も変わらない。そうしてニューヨークは、狂気を飲み込みつづける。

この映画が、あたかも今の時代を反映しているかのようでもあり、そして、後の映画界に影響を与え続けている、その事実の一端が少しでも伝われば、と思います。

マツドン