劇場公開日 2018年2月17日

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「危うく妖しい美しさのアラン・ドロンが魅せる、破滅型野望に青春を賭けた青年の犯罪サスペンス映画」太陽がいっぱい Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0危うく妖しい美しさのアラン・ドロンが魅せる、破滅型野望に青春を賭けた青年の犯罪サスペンス映画

2020年4月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館、TV地上波

ルネ・クレマンと言えば戦後フランス映画界の第一人者であり、代表作「禁じられた遊び」は不滅の名画として映画史に遺るものである。その次に挙げられる作品がエミール・ゾラ原作の映画化「居酒屋」であり、一般的に知れ渡るこのアラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」であろう。そこで興味深いことは、地味な題材をリアリズムタッチの正攻法で演出した「禁じられた遊び」や「居酒屋」とは違って、サスペンス作家パトリシア・ハイスミスの原作の面白さを損なわずに、主人公トム・リプリーの人物像を始め主要登場人物の描き方、舞台のナポリ近郊の漁村の舞台描写が、映像として非常に鮮烈であること。公開当時のフランス映画界は、若い監督たちの躍進でヌーベルバーグが席巻していた時である。まだ40代後半とはいえ、クレマン監督は熟練の巨匠監督の地位にあったと思われる。若い監督の新しい演出に負けない新鮮なクレマンの映画作りに驚きを持って鑑賞することになった。それは偏に主人公を演じた撮影当時24歳のアラン・ドロンの妖美さと、名カメラマンのアンリ・ドカエの撮影の素晴らしさが寄与したからに他ならない。海の青さとそれを覆う紺碧の空。そして白い雲と白いヨット。燦燦と光を放つ太陽とリプリーの入念で破滅的野望。水平線を境界に対照される世界観を巧みに構築している。
モーリス・ロネとマリー・ラフォレも素晴らしい。演出と撮影で特に優れているのは海上でのカメラワーク。不安定な船に設置したとは思えないモンタージュが編集を含めて高度に処理されていると思う。そして忘れてはいけないのが、ニーノ・ロータ作曲のテーマ音楽の哀愁を帯びた美しいメロディ。ともすると完全犯罪を遂行しようとする主人公リプリーに肩入れして観てしまう危険性を孕んでいる演出と音楽である。それがラストのどんでん返しを映画的な結末として、衝撃と安堵を強烈に印象付ける。名ラストシーンのひとつ。完成度の高いサスペンス青春映画の名画として記録したい。

   1977年 1月22日  高田馬場パール

河合書房新社の文藝別冊に掲載された、この映画を絶賛していた淀川長治氏とアラン・ドロンが好きな作家の吉行淳之介氏の雑誌対談が面白い。淀川氏が映画文法から貧しい青年リプリーと大金持ちのフィリップが同性愛の関係と論説するのに対して、吉行氏が最後まで納得できないのが、映画の観方という点で興味深かった。確かに私個人の些細な映画遍歴でも、戦前のフランス映画からの印象に男性同士の距離感が他の国の映画より密接しているものを感じていた。淀川氏の言う、この二人がお互いに無いものねだりの微妙な関係であり、ナイフで刺すのはラブシーンで、鈍器で殺すのは単なる殺しというのは説得力がある。そしてラストシーンで重なる手の演出は後追い心中と分析する。それと主従関係の二人が、船から降りる時一緒にするのがおかしいと指摘する。色んな観方を教えてくれた淀川氏の面目躍如の解説の一つに挙げていいと思う。

Gustav
komasaさんのコメント
2024年10月9日

遅ればせながらコメントありがとうございます。図書館で淀川長治さん映画監督愛という本を借りてルネ・クレマンの章を読んで鉄路の闘い、禁じられた遊びと一緒に改めて本作を鑑賞していました。

確かに男同士の愛が描かれているように感じるシーンが多々有りましたが、憧れと区別しにくいなと言う印象です。例えば白杖のシーンでフィリップがマダムにキスをした直後にトムもマダムにキスをするシーン。フィリップの痕跡を求めたようでもあり、彼が手に入れたものは自分も手にして当然だという思いのようでもあり判然とせず。

引き上げられた帆布からはみ出た手とグラスを持つトムの手のシーン。気づきませんでしたが、死体の手の動いていった先にトムの手が現れるのは狙ったものだなと理解できました。恐らく、ヨットに乗ってすぐトムがフィリップに言った「地獄まで一緒だ」という言葉を受けて、フィリップがトムを迎えに来たのだなと。

取り留めの無い文となって申し訳無いですが、普段パンフレットや映画批評を読むことがなかったので、大きく視野が広がったような体験となりました。ありがとうございます。ただ、淀川さんの言葉が余りにも強く、印象が大きく影響されたようにも思いますが…。

komasa
komasaさんのコメント
2024年10月1日

淀川さんの話、面白いですね。次に見る機会があれば、そういった視点でも観てみたいです。

komasa