第七の封印のレビュー・感想・評価
全3件を表示
vs虚無主義
『ラストアクション・ヒーロー』の終盤で本作の死神が印象的に引用されていたので今更ながら鑑賞。
死神があの世へと連れて行く人間は、その誰もが享楽主義ないし悲観主義に陥っている。この2つのイズムは、己の生に対するどうしようもない虚無感に立脚しているという点で大差がない。虚無の行き着く先は死以外にありえない。
この虚無感を押し返すものとしてアントニウスは神への信仰を絶対化しようと試みる(死神とのチェスはそのアレゴリーだ)が、結局失敗に終わる。そして自分を生に繋ぎ止めるだけの必然性を完全に失ってしまった彼は、死神に連れられてあの世に旅立っていく。
最後まで生き残った旅芸人一家は、アントニウスたちとは違って生の根拠に信仰を置いていない。彼らにとっては、自分や家族が今この瞬間に生きていることそれ自体が生きる理由になっているからだ。
とはいえ旅芸人一家の父親には、アントニウスたちと同様に死神が見えていた。つまりふとしたきっかけで彼らがアントニウスと同様の窮地に陥ってしまう可能性は十分にあったわけだ。
旅芸人一家が死神の魔の手から逃れられたのは、アントニウスが死神を一時的に撹乱したからだ。アントニウスは最後まで自分の信仰に解を得ることができなかったが、その代わりに旅芸人一家を希望として未来へ繋いだ。
アントニウスは虚無主義に食い殺されて死んでしまったが、最期の瞬間までそれに抵抗を試みていた、という悲痛さ。旅芸人一家の無事を祈ってやまない。
死神とアントニウスが大海や野原や森林を背景にチェスに興じるショットには、さながらシュールレアリスム絵画のようにドラッギーな趣がある。こういう印象的なショットがあると物語がギュッと引き締まる。記名性が高まるとでもいうのか。
まあ、ここまで鮮烈なショットは普通の人じゃ撮ろうと思っても撮れないけど…笑
ネグレクトを受けた人たち
ベルイマンがずっと対峙し続けている虚無の問題が非常に色濃く描かれた作品でした。なにせ、実際に「虚無」という言葉が連呼されましたし。
宗教色が強いですが、個人的にはキリスト教の知識がなくてもそれなりに楽しめる映画だと思います。
「神の沈黙」がテーマのようですが、私はキリスト教の知識がないのでよくわかりません。しかし、いくら問いかけられても答えない神と、それでも神にすがろうとする人たちの関係性は、ネグレクトの親子に近いなぁ、と感じました。
子どもが困っているため助けを求めても、親は子を放っておき助けてくれない。これが繰り返されれば愛を感じられず、自分のルーツとのつながりを切断されるような状態になります。そのため自分自身をポツンと孤立した、ひどく脆弱でフワフワと漂う存在として実感することになります。自分の存在意義がわからなくなる。
騎士アントニウスと従者ヨンスは、親である神のために10年尽くしたが、親からのレスポンスは一切ない状況です。それ故アントニウスは親に執着し、なぜ愛をくれないのだと悩み、ヨンスはどうせ無駄、とニヒリズムに陥っています。
彼らだけでなく、本作に登場するほとんどの人たちが神のネグレクトを受けてます。疫病が蔓延する世界で救いがなければ、不安に圧倒されて先鋭化します。途中で登場する狂信者集団は、ネグレクトの果てに発狂した連中と言えそうです。
(まぁ、神ってもともと人間を救うような俗っぽい存在ではないので、私にネグレクトと言われるのは不本意でしょうが…神様ごめんなさい!)
そんな世界で生きてりゃ、ヨンスみたいに虚無になりますよね。ベルイマンは、こんな世界に生きていたのかもしれません。キツい!
今回、ベルイマンが提示した虚無への処方箋は、旅芸人一家です。彼らは恐怖ではなく仕事や家族に目を向け、現実世界を地道に生きています。彼らは人生の意味とか考えませんが、とても意味ある人生を生きているように見えます。
本作の登場人物たちはほとんどが恐慌・混乱状態で浮き足立ってますが、彼らだけが愛を育み事に仕え、地に足をつけて生きているように感じました。だからか、目の前の危機である死の存在を察知し、回避しようと動けたのかもしれません。
ベルイマンは本作を「頭で創った作品」と語っています。その逆の作品が『夏の遊び』だそうです。
本作はかなり緻密でスピード感もあり、破綻なく話が進んだ印象を受けます。しかし、『夏の遊び』のようなポジティブなパワーは感じませんでした。旅芸人一家の生き方は、おそらくこの時期のベルイマンには不可能でしょう。まさにアタマでたどり着いた答え、って感じです。
無意味さは見出せたが、意味獲得には至れず、といったホドロフスキー師匠の『ホーリーマウンテン』的ポジションの作品かな、と考えています。
キャラクターについての感想。死神がユニークで好きです。スマパンのビリー・コーガンのようなキモい風貌で、鎌ではなく糸ノコを使ったりしてチャーミングです。あのキャラが本作をポップなものにしているように思います。
ヨンスが助けた、後に彼の侍女のようになった女性がとても印象的でした。一行が行き詰まったとき、彼女だけはキラキラとした表情で死を切望していたように感じました。彼女は本当に絶望の人生を送って来たのでしょう。切なかったです。
神学者ラヴァルのカスっぷりも面白かった。ベルイマンの悪意を一身に背負ったようなキャラで、逆に惨めすぎて人間味がありました。
※追記
うっかり書き忘れていましたが、映画後半あたりでアントニウスが見せた誇り高き行動が強く印象に残りました。彼が取った、唯一と言っていい意味ある行動。
ベルイマンが虚無に対抗する手段として、旅芸人一家の在り方とアントニウスのある行動を挙げているように思いました。アタマでっかち感はありますが、直後に『野いちご』撮ってますから、やはり手ごたえはあったんでしょうね。
中世は怖い
キリスト教徒じゃないオレが見てもあんまり意味がない感じがした。死神とチェスをするというのは実にロマンがあってよかった。死神がのこぎりで木を切っているのも面白かった。全体的に雰囲気悪かった。民度が低いとか、教養がないとか、医学がしょぼいとか、法律が機能してないとか、そういう社会は厳しいなと思った。
「どうせ死ぬから」といって病にもがき苦しむ人に水を上げず見殺しにする場面も怖かった。
騎士の一人がルトガーハウアーに顔が似ていた。
見ている間はけっこう退屈だったけど、印象深い映画だった。
全3件を表示