「vs虚無主義」第七の封印 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
vs虚無主義
『ラストアクション・ヒーロー』の終盤で本作の死神が印象的に引用されていたので今更ながら鑑賞。
死神があの世へと連れて行く人間は、その誰もが享楽主義ないし悲観主義に陥っている。この2つのイズムは、己の生に対するどうしようもない虚無感に立脚しているという点で大差がない。虚無の行き着く先は死以外にありえない。
この虚無感を押し返すものとしてアントニウスは神への信仰を絶対化しようと試みる(死神とのチェスはそのアレゴリーだ)が、結局失敗に終わる。そして自分を生に繋ぎ止めるだけの必然性を完全に失ってしまった彼は、死神に連れられてあの世に旅立っていく。
最後まで生き残った旅芸人一家は、アントニウスたちとは違って生の根拠に信仰を置いていない。彼らにとっては、自分や家族が今この瞬間に生きていることそれ自体が生きる理由になっているからだ。
とはいえ旅芸人一家の父親には、アントニウスたちと同様に死神が見えていた。つまりふとしたきっかけで彼らがアントニウスと同様の窮地に陥ってしまう可能性は十分にあったわけだ。
旅芸人一家が死神の魔の手から逃れられたのは、アントニウスが死神を一時的に撹乱したからだ。アントニウスは最後まで自分の信仰に解を得ることができなかったが、その代わりに旅芸人一家を希望として未来へ繋いだ。
アントニウスは虚無主義に食い殺されて死んでしまったが、最期の瞬間までそれに抵抗を試みていた、という悲痛さ。旅芸人一家の無事を祈ってやまない。
死神とアントニウスが大海や野原や森林を背景にチェスに興じるショットには、さながらシュールレアリスム絵画のようにドラッギーな趣がある。こういう印象的なショットがあると物語がギュッと引き締まる。記名性が高まるとでもいうのか。
まあ、ここまで鮮烈なショットは普通の人じゃ撮ろうと思っても撮れないけど…笑