劇場公開日 1997年12月20日

「監督の意図は、当時の社会の縮図としてのタイタニック号に観客を連れて行くこと。」タイタニック image_taroさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0監督の意図は、当時の社会の縮図としてのタイタニック号に観客を連れて行くこと。

2024年9月1日
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『ターミネーター』の時から大好きだったジェームズ・キャメロンによる大作ではあるが、個人的には、公開当時からの世間の本作への熱狂にはついて行けず、いまひとつ乗り切れなかった。振り返ってみれば、その原因は主に2つ。ひとつめは、「キャメロン監督はSFでこそ」という先入観に引きずられていたこと。ふたつめは、本作がタイタニック号の再現を狙いながらも、フィクションのメインストーリーを主軸に据えて描いたことに、強い違和感を抱いたこと。実際、主人公の2人の物語に涙することはどうしてもできず、それよりも沈没してゆく船の上での周囲の人々のドラマの方に心動かされている自分がいた。

公開から随分と時間が経ち、冷静な心持ちで4Kリマスターされたものを改めて観てみれば…不思議と少し違って見えてきた。シンプルな物語で広い観客を引きつけながら、卓越した演出技術によって、緻密にデザインされた作品世界に誘(いざな)うのが、キャメロン監督の得意な手法だ。だから、タイタニック号を描くのに自分が最も得意な方法で作ったのだろう。

タイタニック号の“案内係”として加えられた「ジャックとローズの物語」だが、本当に一番描きたかったのはタイタニック号とその乗員・乗客たちで、そこに生きる人たちの時代と社会がどのようであったのか…ということのように思えてきた。あの時代の階層社会とそこから離脱しようとする人々…そういう社会状況のなかで生きた人々の想いや生き様を、ドキュメンタリータッチの群像劇という形にするのでなく、よりよく伝えるために「ジャックとローズの物語」に象徴させる形を選んだのだと思うようになった。

ここでのタイタニック号は、その時代と社会の縮図という感じだ。そういうタイタニック号に、キャメロン監督は観客を連れて行きたかった…これを作った目的はそれに尽きるのではないだろうか。そういう意味では、船内の造形や人物描写は極めて緻密に行われており、リアリティは凄まじい。キャメロン監督の意図は成功したと言っていいだろう。

ただ、「タイタニック号の再現」を第一に考えるのであれば、フィクション無しにやれたらもっと実際の乗員・乗客たちの生き様の方にクローズアップができたはずで、その方が良かったのにな…という個人的な想いはどうしても拭いきれなかった。その点において、星ひとつ減点させていただく。

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