「テーマは好みのはずなのに、スカッとしない」大砂塵 とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマは好みのはずなのに、スカッとしない
物語は、今作成したとしても、超骨太。
制作年代を考慮に入れれば、女性中心の展開で、超時代の先取り。
家が燃え上がるシーンとか、エピソードとか、二人の女優の演技とか、見どころ満載。
なのに、鑑賞後感が良くない。
最初は、女性の活躍が新鮮で、目が釘付けになったのに。
女二人の対決。
まったく根拠なくその場の印象だけで罪と罰が決まっていくところが恐ろしい。
しかも、村人はその決定に賛同しかねるんだけれど、村の大地主の女性に煽られて言いなりになっていく……嫌々従うのではなくて、自分の利益とかを計算しながら、女の言いなり風にふるまうところが恐ろしくも、あざとい。
法の行き届かない、この時代の地方ってこうなのか。
そんな集団ヒステリーのプロセスが丁寧に描けていたら大傑作になるのだろうけれど、
ヴィエンナの恋模様や、ギャングの仲間割れ等にもエピソードが割かれる。ギャングを入れることによって、無法状態を肯定してしまうことになってしまう。
お子様ランチのように盛りだくさん。主題が拡散してしまった。惜しい。
しかも、設定の砂塵とか、山工事の爆発とかが今一つ活かせてないのも、口惜しい。
女二人の対決。
自分を貫く女。そんな女に、女王の地位を奪われそうで、嫉妬する女。
ウーマンリブが台頭する前に制作された映画。時代先取り。なのだけれど、やたらに女性が強すぎて、坊やをかばうところとか格好いいところもあるのだけれど、ついていけない。そんなに肩ひじ張らなくてもいいじゃないなんて感想が出るのは、それだけこの映画が製作された頃よりは女性が自分の力を発揮できるようになった社会に生きているからか。
かつ、20代の小娘ではないのだから、ただ喚き散らすだけでなく、頭使いなさいよと、女王の座を巡る争いについても、男を巡る争いについても、目をそむけたくなり、映画としての面白みをそぐ。とはいえ、現実には30代以上の女性の争いも、こんなものか。リアルな姿を見せつけられるからげんなりするのか。
そして、
この映画はこの頃ハリウッドに吹き荒れていた赤狩りを比喩しているとも聞く。
それならそれで、”男”を主人公にするんじゃなくて、女のヒステリーに転嫁しているところがせこい!って思ってしまう。
ヴィエンナの土地を奪おうとするのも、鉄道絡みの利権から発生しているはずなのに、いつの間にか、女性の私的な争いに村が巻き込まれていくことになるし。
この映画でも、責任取るのは女。男は責任を女に押し付けて逃げる。
そういう意味でも、人間性の本質を見事に描いたのだなと感嘆する。
マカロニウェスタンを期待したからいけなかったのかな?
初めから、社会派・人間ドラマとして観たらよかったのかな?
(2019東京国際映画祭にて屋外上映にて賞)