「2024年現在、33年経った今こそ観たい名作」ターミネーター2 モアイさんの映画レビュー(感想・評価)
2024年現在、33年経った今こそ観たい名作
映画を沢山見る人ならわかると思うのですが、世の中には面白い映画が多いです。しかしその“面白さ”の程度ってマチマチですよね?
例えば「思ったより面白い」だったり「どちらかと言えば面白い」だったり、「前に観たアレよりは面白い」や「俺は好き」、あげくは「まぁ…面白かったんじゃない?」という程度の“面白さ”もあると思うのです。しかしそんな有象無象の面白さなど軽く消し飛ばしてしまう強靭な面白さを持った作品は確かにありますよね?その映画の前ではそんな有象無象の面白さを必死に吟味していたのがアホらしくなるほど強力な面白さなのです。
しかしそんな強靭な面白さを持った作品は危険です。その作品を基準にして他の作品を判断しようとすると、ほとんどの作品は見劣りして、詰まらなくなってしまい、もう映画はいいや…となる危険性を孕んでいます。(実際私もそんな感じで映画を見なくなった時期がありました)そして本作もそんな危険を孕む強靭な面白さを持つ映画の一つです。
今回は私の家から一番行きやすい場所にある劇場で何故かリバイバル上映されていたので観てきました。私は人混みが苦手なので劇場へ行くときはなるべく遅い時間帯の上映回へ行きます。そのせいもあり?最近見てきた映画は自分のお望み通りではあるものの、あまりのスカスカぶりに逆に淋しさを感じる程でした。ところが本作はどうでしょう。もともと日に1回しか上映されないせいもあるのか、えらい盛況ぶりです。これが33年前の映画の入りかよ?という程の客入りです。この映画がいかに多くの人の心を掴んだのかを目の当たりにさせられます。
上映中に同じ列の人が泣いている気配が感じられます。普段は気が散る原因にもなる他のお客さんのリアクションですが、私も泣いてます。映画の場面はあの悲壮感を湛えたテーマ曲が流れるオープニングです……いや、やっぱ泣くよね!?ここ泣くよね!?
本来なら子供たちのハツラツとした声で溢れ、平和を絵に描いたような光景であろう公園が炎に包まれています。もちろんこのイメージはサラ・コナーが劇中に見る悪夢と繋がっている訳ですが、ありとあらゆる遊具が炎上する様を映しながらゆっくり横へ流れていくカメラワーク。そしてテーマ曲がクライマックスに向かうのに合わせて炎の中に浮かび上がるターミネーターの顔面。鏡面状の表層に燃え盛る炎を冷たく反射しているのです。
このオープニングだけで未来の人類に訪れた悲劇の大きさと過酷な運命を感じさせ、これから始まる人類の命運を掛けた戦いに対する緊張感を程よく高めてくれます。そして何よりシュワちゃん演じるサイボーグ101型にまた映画館で会えるんだ!という期待感に胸が一杯になるのです。
こんな感じで初っ端からやや暴走気味の高揚感に包まれ、歴史的名作を劇場の巨大スクリーンと大音響で堪能してきたのです。
今さらこの作品の物語だとか世界観だとか、キャラクターだとかを私が語ったところで仕方がない気がします。これまでも散々語られてきたでしょうし、その語られてきた事と私の感想もたぶん大した違いはありません。
しかし、確固たる実体(骨格)を持った旧型のT‐800と、姿形を自在に変えられる最新型のT‐1000という対決構造はその後のハリウッド娯楽大作の特殊効果の主役がCGへ変遷していく事を象徴しているかのような感慨がありますし、分厚い体のシュワちゃんとスラリとしたロバート・パトリックの対比もアクションスターのスリム化を予見させるのです。(実際長い映画の歴史を見ればシュワちゃん、スタローン時代の方が特殊なのですが…)そして何よりこの映画のアクションシーンの見やすさと言ったらありません。何がドウなったからコウなったという画面の中で起きた事象が本当に把握しやすのです。
映画序盤の用水路を逃げるジョン・コナーのバイクと追跡するT‐1000のクレーン車。シュワちゃんは用水路より少し高い位置にある側道をバイクを走らせて二人を追跡しています。チェイスする三人のそれぞれの位置関係がちゃんと把握できます。
ジョン・コナーが走っていく先にある段差や障害物(廃車やカート)を確認できるカットがあり、それらを物ともせず蹴散らして追跡してくるクレーン車のカットへテンポよく繋がっていきます。
シュワちゃんが懐から銃を取り出し、先ずはクレーン車ではなく、前方に向かって発砲。
カットが変わり側道の出入口を施錠している鎖が弾け飛びます。
追跡を続行し、側道からクレーン車を銃撃するシュワちゃん。ここで例の銃を1回転させてのリロードが劇中で初披露されます。片腕はバイクのアクセルを回して塞がっているのでこのリロード方法なのです。
銃撃に気づくT‐1000。しかしジョンの追跡に専念します。ジョンのバイクが陸橋をくぐります。そのまま陸橋に突っ込むクレーン車。運転席の上半分が剥がれ落ちます。振り返るジョン。ホンの一瞬の間の後、上体を起こし再び運転席に現れるT‐1000。追跡は続きます。
いよいよジョンに追いつき、バイクを小突きだすクレーン車。そこへついにシュワちゃんのバイクが側道から用水路へダイブしてきます。スローで着地した際に飛び散る火花が完璧です。
後ろからシュワちゃんのバイクが迫っている事に気づくT‐1000。クレーン車を蛇行させて前に行かれるのを防ぎます。しかし機動力と加速力に勝るバイクはクレーン車を躱し前方へ。すかさずジョンをピックアップし、クレーン車のタイヤ目掛けて発砲。
コントロールを失ったクレーン車はそのまま支柱付きの陸橋に激突。燃料タンクからガソリンが漏れ出したところにイグニッションが火花を噴いて爆発炎上。爆炎の中に動く影を警戒して銃を構えるシュワちゃん。…出てきたのが炎上したタイヤである事を確認し、その場を走り去ります。
二人が去った後、炎の中から姿を現すT‐1000。銀色のメタリックな表層が徐々にロバート・パトリックの姿へと戻っていきます―。
と、一連のアクションシーンの中で登場人物の置かれた状況やその行動の意図や駆け引きがちゃんと映像により説明されており、こんな下手な文字起こしをするまでもなく映画を見れば何がドウなったからコウなったという事がすんなり理解できるのです。
また連続した動きの中でも絶妙な間やスローモーションを加えてシーンに心地の良いリズムを演出しています。なので先の展開が分かっていても、何度でも盛り上がれるのです。これは音楽を聞く感じと似ていると思います。
他にもサラ・コナーのアクションで、相手の顔目掛けて鍵束を放り、思わず掴もうと手を上げた相手のガラ空きとなった胴へ攻撃や物陰に隠れたまま天井目掛けて発砲し、銃声に相手が怯んだ隙に移動する。というような、実際有効かはわからないけど妙に説得力のある動きなど、この映画の中で描かれるアクションは理にかなっているように見えます。
確かに理屈なんか関係なく盛り上がれる映画って私にもあるのですが、この映画の場合はその妙な理屈っぽさや律義さに荒唐無稽な話にどうリアリティを持ってもらうかという作り手の拘りのようなものを見て、その職人気質に感動するのです。決して派手なドンパチを見せるだけの大味なアクションではないのです。
「ジェームズ・キャメロンのSF映画術」(18年)というシリーズがあります。ユーネクストで配信されていますのでそれ系が好きな方は是非見て欲しいのですが、キャメロンがホストとして、スピルバーグやルーカス、リドリー・スコット、クリストファー・ノーランなどと対談してSF映画が何を描いてきたのか、その歴史を交えて紹介する番組です。(対談よりも関係者のコメントシーンの方が多い構成ですが…)
全6回のうち第5回の「知能を持った機械」がテーマの回でシュワちゃんとキャメロンの対談の模様が見られます。当然ターミネーターシリーズの話なのですが、シュワちゃんと話している時のキャメロンはどことなくウキウキしています。明らかにリドリー・スコットと話している時とは様子が違い、目の輝きが子供の様です。シュワちゃんの方が年上という事もあるのでしょうが、キャメロンも我々と同じようにシュワちゃんの中に懐の深い包容力と父性を感じているのだろう事が伺えます。だからこそ本作のシュワちゃんはあのように描かれたのだろうなと感じさせるのです。
「Stay here, I'll be back」のセリフと共に催涙弾の煙に消えていくシュワちゃん。格好良いものは常に煙を纏っているのです―。
どれ位の規模で今回のリバイバルが行われているかは知りませんが、お近くの劇場で上映されているのならこの機会にもう一度この映画を観てみてください。33年の時を経ても尚、その強靭な面白しろさが不変であることを確認できること請け合いです。
そして何より、ドローン兵器が戦果を挙げ、世界の各社がAI開発競争を進めている現実社会の様子から、いよいよ審判の日も近いなと感じさせる昨今、この映画の描いた物語は再び注目されるべきものだと感じるのです。
「猿の惑星」へコメント有り難うございます。
埼玉県からでしたら、行ける都内の名画座は池袋新文芸座でしょうか。あとは高田馬場の早稲田松竹とか。昔と違って名画座自体が殆ど無くなってしまいました。埼玉県内の名画座は判りません。ではまた。
こんにちは
コメント&共感ありがとうございます😊
「ターミネーター」は、1と2と2019年の「ニュー・フェイト」
は観てます。
モアイさんはリバイバル上映で映画館でご覧になったのですね。
鮮度100%の興奮と感動が伝わって来ますね。
「終わりに見た街」
日常的にテレビを見ない生活を送っています。
割とラジオを聞いてるかな。
なので日時と放送時間教えて貰って、とてもありがたいです。9月14日に予約・・・と、メモしました。
山田太一の原作を宮藤官九郎が脚本そして大泉洋主演なんて、
見逃す手はありませんね。
「PERFECT DAYS」
まあ、後からじわじわ来るような映画ですよね。
確かめたいこと・・・
なんか気になります。
シレーっと忘れた頃に投稿して下さいね。
グレン・パウエルの「ヒットマン」も、もう直ぐですね。
行けたら、行きたいと思っています。
それではまた
初めまして。
モアイさんのレビューに大共感!
うんうんそうそう!と首もげました♪
本作、脚本もカメラワークもアクションも音楽も台詞も!全て!良い作品ですよねぇ〜。
しみじみそう思います。
大人になった今みると、子供時代にはわからなかった感情が揺さぶられ過ぎて、頭も身体もブァッ!!となります。
素晴らしいレビュー拝読できて朝から興奮しました。
ありがとうございます♪