一瞬の夢のレビュー・感想・評価
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素人臭さ
主人公の動き以外の描写はドキュメンタリー映画風。その主人公にしたって皆素人なのだから、演技という枠を超えた悲壮感が感じられる。
最初のデートは電話と美容室のお供だけ・・・カラオケルームの娘なので店に戻らなければならないのだ。だけどホッペにチュッ。それでもふてくされた表情のウー。なんだか決定打のないまま悪銭でカラオケ通い・・・
実家へ戻ってからも親とのケンカ。町へ出て窃盗を繰り返すと、いよいよ捕まってしまう。そこからが哀愁漂うウー目線の映像。メイメイから連絡の来るポケベルまで取るな!てな感じでなかなかいい。
最後は警官に町の中に手錠をかけられ晒し者になったところで終わる・・・きついぜ。
強烈なロケーション
この映画の最大の魅力は、中国のどこにでもありそうな地方都市のロケーションであろう。
恋人ができたばかりの主人公が行く公衆浴場は、廃墟のように荒廃した雰囲気から、現役の浴場とは思えない。そんな中、被写体は全裸となり、浴槽に浸かるのだ。これを見て驚倒しないという観客は珍しいのではなかろうか。浴槽近くに並ぶ汚れた小便器がなかったとしても、この風呂を使いたいと思う者はいないはずだ。失礼ながら、映画の舞台である中国でも、観客の反応は同じであろう。
ジャ・ジャンクーの演出が上手いのは、そうした不衛生で、沸いているのか水風呂なのか分からない描写のあと、高い天井へと視線を上げたカメラが湯気をとらえるところだ。このショットで観客の疑問の一部が氷解する。
しかも、この人物は三つの浴槽にそれぞれ手を入れて湯温を確認する。この描写は犯罪を生業とする主人公の、臆病さや神経の細やかさを表している。
なんとも強烈な印象を残し、映画全体の性格に影響を与えるロケーションは、後年の「青の稲妻」においても出てくる。
「青の稲妻」では、この浴場にあたるのが、映画の冒頭に謎のアリアを男が歌う建物だ。この体育館のような広い空間の端に、列車の中のように向かい合ったシートが並んでいる。いったい何に使用される建物なのであろうか。中国によくある駅の広い待合室のように見えなくもない。
この場所は、北京の学校への進学が決まった恋人と別れるシーンにも使われている。
この大広間に続いてビリヤード台が並ぶ部屋があり、同じ年代の若者たちが集うところを見ると、大学のようにも見えなくはない。
なんとも不思議な空間である。ジャ・ジャンクーのスクリーンに現れる不思議な空間は、中国の人々の眼にはどのように映るのであろうか。
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