「虚しさしか残らない惨劇の疑似体験の緊迫感に刮目せざるを得ない戦争映画」戦場にかける橋 Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)
虚しさしか残らない惨劇の疑似体験の緊迫感に刮目せざるを得ない戦争映画
第二次世界大戦の1943年、タイとビルマ(現ミャンマー)の国境近くにある日本の捕虜収容所を舞台として、戦争の悲惨さと虚しさを主題にスケール豊かに描いたデビィット・リーン監督中期の代表作。原作は「猿の惑星」のピエール・ブールの『The Bridge on the River Kwai』で、フランス領インドシナで徴兵されてから体験した数奇な境遇を基に創作したフィクション。それを「真昼の決闘」「ナバロンの要塞」のカール・フォアマンと「陽のあたる場所」「猿の惑星」のマイケル・ウィルソンが脚色しています。あくまで戦勝国イギリス側から見た戦争映画の立場でした。更に注目すべきは、製作者が「運命の饗宴」「アフリカの女王」「波止場」そして「アラビアのロレンス」「逃亡地帯」「将軍たちの夜」のサム・スピーゲルという人の、その諸作から想像させる題材の異色さと独創性が強烈である事です。ロケーションのセイロン(スリランカ)で大掛かりな建設と密林の過酷な撮影を思うと、この映画はサム・スピーゲルとリーン監督の共作と言っていいかも知れません。それほどに映像化された全てのシーンが充実していて重量感があります。そして撮影が「ヘンリー五世」「旅情」のジャック・ヒルデヤードの構図の巧さが引き立つカメラワーク。選りすぐりのスタッフが集結した大作映画が、内容面も含めてとても見応えがありました。
見所は大きく二つ。イギリス兵捕虜が鉄道建設に強制労働させられる中で、日本将校の矜持とイギリス将校のプライドが対立し、お互いの意地の張り合いから膠着状態が続く前半の持続する緊張感。将校含め全員の労役を断固要求する斎藤大佐に対して、ジュネーブ協定を持ち出し建設作業の指揮を執りたいニコルソン大佐。武士道と騎士道のこの応戦には、日本人から観て若干の違和感があり、特に決着後斎藤大佐が一人むせび泣くシーンは唯一余計でした。しかし、ニコルソン大佐のアレック・ギネスと斎藤大佐の早川雪州の素晴らしい演技で、弛緩することなくこの対決を見守ることが出来ます。そして最後のクライマックスに至る後半の緩急織り交ぜた脚本の構成が、また素晴らしい。一人脱走を成功させたアメリカ海軍兵のシアーズ中佐がしぶとく生き延びてイギリス領セイロンの病院で休養する場面と橋建設場面のカットバックの映画的な表現。物語の主役が二人の大佐から、二人の少佐に変わっていくこの自然な流れ。それも階級を誤魔化し中佐を名乗っていたことが発覚するシアーズが、一転爆破作戦に加わざるを得なくなる皮肉。看護師や現地の女性と睦み合うアメリカ男の軽さを、ウィリアム・ホールデンが嫌味なく演じて人間味もある。対してリーダー格のウォーデン少佐の実直な任務遂行の生真面目さに、ジャック・ホーキンスの渋さが嵌ります。そこに若いカナダ人ジョイスが加わり、ジャングルを突き進むシークエンスは、ジョン・ヒューストンの名作「黄金」を彷彿させる定番のキャラクター設定です。岩山の稜線を奥に手前にウォーデン少佐が木に寄り掛かるショットの美しさ。渓谷のシーンでは、日本人として心が痛くなる殺害場面があります。風景の美しさが際立つと、人間の愚かさや残酷な行為が改めて意識されるのかも知れません。
映画最大のクライマックスは、脚本とリーン監督の演出の盛り上げ方の巧さに唸らされました。ニコルソン大佐が疑念を抱き斎藤大佐と橋から降りて川沿いを行く、それを見てジョイスを危ぶむシアーズ少佐とウォーデン少佐。遠くからは汽笛が聴こえてくる。そして、最後シアーズ少佐が駆け寄り、ニコルソン大佐が漸く気付くところが凄いですね。4つの視点が爆破装置に集中し増幅する緊迫感の醸成。この地獄絵図を傍観していたクリプトン軍医が呟く狂気は、そのまま戦争そのものであると、カメラは俯瞰で惨劇の峡谷を見下ろしていきます。
日本軍が使っていた銃ではないことや、橋の構造も実際のものとは違う点で、時代考証の観点から評価できない部分もあると思います。しかし、これは戦争とは結局無意味で残酷なだけであり、男の意地を通しても虚しさしか残らないことを諭す為に作られた戦争映画であるでしょう。戦争の恐ろしさと虚しさを味わうために映画鑑賞で疑似体験することを、唯一の教訓としなければなりません。その重みを感じて、刮目に値する映画として評価したいと思いました。テーマ音楽“クワイ河マーチ”(ボギー大佐)の軽くリズミカルな曲が、内容の重みを揶揄するようで、それが対比となり重さを際立たせている効果もあります。
おはようございます。
共感ありがとうございます。
とても綿密で素晴らしいレビューに隅々まで
思い出しました。
あんなに努力してかけた橋が、一瞬で破壊されてしまう。
戦争は本当に虚しいですね。
人間の愚かさと反戦が心を打ちます。
でも心に残っている感覚は、いい映画を観たと言う充足感です。
不思議です。