劇場公開日 1989年9月30日

「これは伝統破壊か? 原作尊重か?」007/消されたライセンス pipiさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0これは伝統破壊か? 原作尊重か?

2021年9月27日
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鑑賞方法:VOD

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007シリーズを連続で見てくると、本作は異色な印象を受ける。
前作で原作尊重の原点回帰を果たしたが、リアリズムを追求すればするほど「荒唐無稽なファンタシー」「そんなんあり得ないだろー!とツッコミ入るくらい男のロマンを盛り込んだご都合主義」「ユーモア溢れる明るいスパイ活劇」という、コネリー&ムーアが築いてきた「007映画」という伝統から外れてしまうんだなぁ。

しかし、映画としての出来はどうか?と問われれば、間違いなく面白い。
「ユア・アイズ・オンリー」からジョン・グレン監督が追求してきたハードアクションがティモシー・ダルトンという役者を得て「スーパーリアリズム路線」という改革を実現した。
ジェームス・ボンドのみならず、グレン監督&ダルトンも「007」というライセンスを返上して「ハードコア本格スパイアクション大作」に挑んだのだね。
4つの製作会社、2つの配給会社が絡んでいるのだから、やはり あまり「007らしからぬ映画」になるのは厳しい意見もあったろう。
「あり得ないほどの短時間でジェームスに心を開くボンドガール」や「安心感溢れる いつものQらしさ」は、シリアス&ダークに振り切った本作の中で微笑ましく温かい陽だまりを生み出していた。
彼らのおかげで、かろうじて本作は「007シリーズ」である事を失わない。
(浮いている中国麻薬捜査官&忍者は、元々の脚本設定が東南アジアの麻薬王だったからだそうだ。天安門事件の為に撮影困難となり、急遽舞台を中南米に変更。って事は、サンチェスのモデルはコロンビアのパブロ・エスコバルではなくミャンマーのクン・サ。
アジトはゴールデントライアングルになっていたのかな?でも、脚本変更の時点で忍者は残さなくていーのに。やっぱり欧米ではウケるのか?)

フィリックス、キリファー、クレスト、ヘラー、ダリオの「ここまで凄惨なシーン」もシリーズ初。
アメリカやイギリスではカットされてもなおかつ米PG-13、英はPG-15指定。日本は幸いノーカット版上映であった。緩い時代で良かった。
「こんなの007じゃない!」というご意見もあろうが、その通り、配給からしてタイトルから「007」の文字を外していた。
製作陣は「007辞めてますから。ジェームス・ボンド個人の戦いですよ?」と言う事が出来るのだ。
(公開から17年の時を経て、カジノ・ロワイヤル上映時に初めて本作にも007の冠がつく)

お約束の空中アクションを冒頭にもってきたのは非常に良かったと思う。
デラの殺害後は、どんなシーンであっても根底に暗く悲壮な覚悟がつきまとう。
それと対比を為す冒頭は、明るく楽しく、これ以上ないくらい最上の幸福感に満ちている。なればこそ、極上の空中アクションを観客も心から楽しんで鑑賞する事が出来ると思った。

「敵は皆、どこかの組織の回し者」と思っているサンチェスに、理由を明かすボンド。盟友の仇打ちの為だけに命をかけて単身で乗り込む馬鹿もいるのだ!と言わんばかりに、怒りの炎がサンチェスを包み込む。

ヘミングウェイ・ハウスでの「Farewell to Arms」の台詞。こういう知性とウィットを感じる些細な台詞はやはり007シリーズだ。
ボンドガールは両名ともジャクリーン・オナシスをモチーフにしているのもわかる。(パムは偽名にケネディを名乗っていたし、ルペは大統領との結婚が推測される)

この時期、ジャクリーンはどうしていたのかな?と調べてみれば、オナシスは1975年になくなり、ジャクリーンはN.Yの出版社で働いていたようだ。
本作公開から僅か5年後の1994年、悪性リンパ腫により64歳の若さで亡くなっている。アメリカのファーストレディ、ギリシャ海運王の妻として世界中に名を馳せた才色兼備の女性には、あまりにも悲しい話だ。
今ではオナシスとの再婚は、大統領暗殺後1年間で警備が外れた為に子供達の安全を考えての事だったと理解されている。
ジャクリーンはジョン・F・ケネディの隣に埋葬されたとの事。夫妻の冥福を心から祈る。

デラとトレーシーも、天国で仲良くアフタヌーンティーでも楽しみながら、最愛の夫達が隣に眠る日をのんびりと待っていてくれる事だろう。
その日まで、ジェームスもフィリックスも、まだまだ世界を股にかけてのヤンチャぶりを発揮して、我々を楽しませて欲しい。

pipi
bloodtrailさんのコメント
2021年9月28日

pipiさんへ
こちらへコメントをお返ししますが....
それ以前に、007の内容、全然覚えてない俺がいますw
波乱万丈で不幸なイメージしかないジャクリーンですが、名言をたくさん残してる、と言うか、その発言が注目される人だったんですね。「低身長のデ●は、うちを真似して同じ服を着るんじゃねーよ!」(と言う内容の発言)。なんてのもあるらしく、ある意味破天荒な人だったんですねw

bloodtrail