「米ソ・デタントの象徴的作品」007 私を愛したスパイ pipiさんの映画レビュー(感想・評価)
米ソ・デタントの象徴的作品
フレミングの007執筆時期は、ちょうどベルリン危機、キューバ危機を経て、米ソがあわや核戦争に突入する寸前までいった東西緊張の際たる時期に合致する。
そして62年からスタートした一連の映画シリーズは、「神出鬼没の忍者外交」とも呼ばれたニクソンの訪ソ・訪中、フォードのベトナム戦争処理、彼らを支えたキッシンジャーの外交理論(米ソ2極化は終わり、米・ソ・欧州・日本・中国の5大勢力がバランスを取って世界の安定を図る構想)などを如実に反映している。
中でも、007とKGBの腕利き美女スパイがタッグを組んで任務に当たるという本作は、米ソデタント(緊張緩和)を象徴する作品と言えよう。
本作公開に近い時期だったと思うが、人権外交を旗印とするカーターとブレジネフがハグを交わしたシーンを子供心に記憶している。
まぁ、せっかくの雪解けも、79年のソ連アフガニスタン侵攻によって終焉を迎え、世界は新たな緊張の局面に放り出されていくわけだが・・・。
さて、硬い話はこの程度にして、せっかくの緊張緩和時期、英ソに咲いたラブロマンス映画を楽しんでいこう。
第一印象は
「やれば出来るじゃないか!悪戯っ子3人組!(当然、ガイ、カビー、ロジャーだよ)」だった。
しかし、改めて思えば、ガイ・ハミルトンじゃないんだよね、これ(苦笑)
やっぱり今までのA級戦犯はガイだったのか?
「二度死ぬ」のルイス・ギルバートかぁ。でも、安易に信じちゃいけないな。「二度〜」は日本って事で大甘補正評価しちゃったし、次作はスターウォーズもどきの大バカ映画だった気がするし・・・。
まぁ、なんにせよ、第1作からの短期間鑑賞マラソンを実践してみて、初めて一切の文句なしに「面白い!」と言える作品だった。(これまでの評価には、年代を加味した上方補正は入っていたので)
ここまでのB.G.の中では最もガードの硬かった彼女。だから、その鉄のカーテンを開く要素がきちんと用意されている。
まず、冒頭。ひとときの短い逢瀬を惜しむ恋人達だが、同時にボンドの側にはまったく非がない事もわかる。007殺害こそが彼の任務であり、ボンドにしてみれば完全に正当防衛だ。
列車のシーン。誘惑を拒む彼女だが、ジョーズの襲撃が状況を変える。
ただでさえ、共通の恐怖体験をした男女は恋に陥りやすい。命の危険を感じる事により、大至急、子孫を残そう!とするDNAの働きなんだろう。
「ジェームスがいなければ確実に殺されていた」「彼はすでにこの世にいない」「彼と同じ世界に生きる男」
これだけ条件が揃えば、命のお礼に身を差し出す気持ちになった彼女を責められないだろう。
一夜明ければすっかりジェームスとステディな気持ちでいるアニヤ。ジェームスに秋波を送るナオミや他の女性に対して露骨に不快な表情を見せる。これまでのBGは自由恋愛と割り切っている姿勢がデフォルトだったから彼女の反応は新鮮だ。
しかし中盤、彼を殺したのはジェームスだと判明。
非情の掟に生きるスパイ。任務に私情を持ち込む事は許されない。複雑な心情に苛まれながら「任務が終わったらあなたを殺す」と告げる彼女。
ラストシーン直前。もし彼女が自分を殺したとしても、きっとジェームスは笑って許しただろう。
しかし、彼がしてくれた事を考えれば怒りも解けるというものだ。
軍人、ましてや秘密諜報員であるならば、アトランティスと共に海の藻屑と消えるのが当然。
それをジェームスは命令違反を犯してまで命懸けで助けに来てくれたのだ!
悪くすれば共に砲撃を受けて爆死か土左衛門。運良く助かったとしてもアトランティス破壊に支障があれば軍法会議で銃殺!まではいかないまでも重営倉禁錮刑くらいは喰らうだろう。軍人にとって軍法会議がどれだけ恐ろしいものであるかは言うまでもない。
それだけのリスクを覚悟で、助けに来てくれた。これで惚れなければ女じゃない。
斯くして東西友好を一層深める2人でありました。ロマンスですねー。
ロマンス面のレビューが長くなりすぎて、大好きなエスプリネタが書けない〜!(まぁ、今回はそれがメインテーマだからいいか。しっかし、トリプルX、つまり XXXってセクシャルな意味あったよね?(笑))
ロジャー、ようやくマティーニ飲んだし(飲まされたしw)、英国車乗せられたね。DB5じゃないけど、コーリン・チャップマン好きのワタクシとしてはロータスの方が嬉しい♪
ランボルギーニやフェラーリの国を英国のスーパーカーが疾駆するのは、英国人には痛快だろう。
海岸線では青い海に白い車体が実に映える。
海中(爆笑!Q、いつかはやるだろうと思っていたが)では、白鯨かベルーガのようだ。
リパラス号に囚われていた英露の潜水艦乗り達が意気投合しているのも嬉しいし、彼らがひとたび武器を手にすれば、ストロンバーグの私兵如きは太刀打ち出来ないのも痛快だ。厳しい訓練を生業にしているプロの海軍兵なのだから。
そんな彼らでも司令室の防壁は頑強過ぎて歯が立たない。
N.Y.とモスクワの壊滅危機を前にしてはリスクの大きさを問うてはいられない。核ミサイルの起爆装置を素手で取り外すという奇策のスリリングさは、如何に緊迫した事態かを視聴者に訴え、死すら厭わぬ彼らの覚悟を物語る。
(まぁ、当時の原爆だから出来る事。水爆ならば起爆装置自体が原爆だからね。防壁破壊にゃ使えない)
今回、唯一引っかかったのは「ボンドが女に容赦無い」ことだ。
カイロでも女を盾にするし、エスプリからはヘリのナオミちゃんと笑顔を交わした直後、ミサイルぶち込むし。
もう少し、他の手はなかったんかい?
アニヤを演じたバーバラ・バックに撮影後、ボンドの印象を問えば
「女を盾にする豚野郎」と言ったとか言わないとか。
アニヤ、あにはからんや、、、である。