劇場公開日 2023年11月17日

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「21世紀の目で本作を見ると凄いものが見えてくる」007 ドクター・ノオ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.021世紀の目で本作を見ると凄いものが見えてくる

2019年1月23日
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鑑賞方法:DVD/BD

遥か昔に観たきりで何十年ぶりに再観賞してみて、いろいろと衝撃が走った作品だ
60年近い前の作品でありながもいささかもふるびておらずいまだに現代感が失われていない
冒頭のジェームスボンドのテーマが景気良く流れるだけでテンションがあがる

映画の原形としてはヒッチコックの北北西に進路をとれで
これに習ったスタイルだが、本作がスパイアクションもののジャンルを切り開いたと言って良い

そして21世紀の目で本作を見ると凄いものが見えてくるので驚いてしまった
昔はただ単に有名な古いスパイアクションとしか見ていなかったし、見る力も知識も無かった

設定も荒唐無稽なもの、派手ならそれで良いのだろう
そう思っていた

だが改めて見るとどうだ
敵はスペクターという犯罪組織だが、今風に言えば国際テロ組織ではないか

そして本作の敵は中国人
ドクターノウの造形は今世界を騒がせている中国ナンバーワンのハイテク企業のCEOを思わせる
カナダで逮捕された女性CFOは本作の女工作員に似ているのだ

米国の宇宙支配への挑戦、核鉱石採掘、
その拠点はカリブ海の秘密基地

制作は1962年
公開直後にキューバ危機が起こり、2年後には中国初の核実験があり、期せずして時節ネタぽくなったばかりか、その何十年後には西側でも東側でもない国際テロ組織によって数千人もの人間が米国の中心で映画以上の手段で無惨に殺されているのだ

そして公開から半世紀以上たった現代
本作の設定は冗談の様に現実化しつつあるのだ

中国の宇宙の軍事利用は米国に宇宙軍を発足させるほど
そして全地球的な様々な戦略要地に拠点を構え初めており米国と中国の覇権闘争が始まっている
中国がこともあろうかカリブ海にも拠点を設けたとのニュースもあったのは最近のことだ

ドクターノウの秘密基地の兵士は犯罪集団にもテロ集団にも見えない
中国人民解放軍の兵士が駐屯しているかの様に描かれているのだ
まるで予言のようだ

そして最大の衝撃は秘密基地の原子炉施設の描写だ
敵に捕まったときに、まず放射能の除染シーンからはじまるのだ
汚染された衣服を捨て、高圧シャワーを浴び何シーベルトまで低下とかのやり取りを丁寧に見せるではないか
ボンドが大きなパイプを這って進むシーンで、温水が恐ろしい勢いで流れてくる
あれは原子炉の冷却水だ
あのパイプは原子炉に付帯する冷却水の循環パイプだったのだ
一体どれだけ被曝しているのかそら恐ろしいシーンだ

そして終盤の秘密基地の爆発だ
ボンドが原子炉の制御棒を危険レベル以上に引き抜いて爆発させていたのだ
メルトダウンを起こし水素爆発したのかも知れない
だから秘密基地の人間は必死に逃げたのだ
これはもちろんフクシマの予言だ

このシーンはフクシマを経験した日本人にとって誰にも衝撃的なシーンであろう
それをするのか!と思わず身を乗り出して止めたくなる
カリブ海の広い範囲が深刻な核災害に晒されているはずなのだ

当然、当時の不正確な科学知識、稚拙な科学考証の単なるスパイアクション映画に過ぎない

そんな恐ろしいことは忘れよう
ただの娯楽映画だ
しかしもう、ああー面白かった!だけで終わらない映画になってしまったのかも知れない

酒でも飲んで忘れよう
ドライマティーニを、ノットステアで
つまりシェイクでフレーク状の氷をシェイクした空気でふんわりしたシャデーにしてある
ジンではなくウォッカベース
銘柄はスミノフだそうだから 何処のバーでも飲める様だ

ドンペリの55年物はとても無理
売っている酒屋があれば20万円はするかも
夜のお店で頼めば軽く100万円はしそう
さすがのボンドも割るのは勿体なくてできなかった

最後にドクターノウの部屋から出るとき、階段の横に飾ってある肖像画を見て思わず足を止めるシーン
昔は意味がわからなかった
あれはゴヤのウェリントン公爵の肖像という絵画
本作製作の前年、ロンドンのナショナルギャラリーという大美術館にあったものが盗難に遭い当時の大ニュースだった、とのこと
それでここにあったのか!と驚いたシーンだったわけだ
ようやく謎が解けた

あき240
あき240さんのコメント
2020年11月14日

ゴヤのウェリントン侯爵の絵は、2020年のロンドンナショナルギャラリー展で来日していました
初めて本物を見ることが叶い、感激しました

あき240