劇場公開日 1930年10月30日

「反戦映画の歴史的傑作にある、戦場の悲惨さを写実したマイルストン監督の演出美」西部戦線異状なし(1930) Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0反戦映画の歴史的傑作にある、戦場の悲惨さを写実したマイルストン監督の演出美

2021年10月24日
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鑑賞方法:DVD/BD、TV地上波

第一次世界大戦におけるドイツ軍の若い兵士たちを等身大の姿で描き、戦場の前線の悲惨さや残酷さを生々しく表現して、戦争の愚かさを説得力を持って訴え掛ける反戦映画の傑作。
特に、戦争を扇動し好戦を主張する大人たちと戦場に送られ実際に人殺しをさせられる若者との対比が象徴的に扱われていて、戦争に追い詰められた人間社会の構図を俯瞰した客観的な視点が勝る。それが地味に静かに、心に染み入る感動を呼ぶ作品になっていた。声高に反戦を主張したイデオロギーは語られないし、ドラマチックな展開もない。記録映画のような、忠実に再現された戦場を舞台に兵士同士の会話が語られ、過酷な状況の中でもユーモアを忘れない人間のありのままの行動が写実的に描写されている。また、兵士ひとり一人の顔のアップをモンタージュしたシーンの無言が訴える、その表情が語り掛ける映画ならではの表現の雄弁さも特筆に値する。これは監督ルイス・マイルストンの手腕に他ならない。また、兵士が戦場を駆けるシーンの早送り(コマ落とし)の技法による、臨場感のある緊迫の演出も素晴らしい。人類史上最も悲惨な戦争と言われる第一次世界大戦のこの戦闘シーンは観る者を圧倒して止まない。

主人公が初めて敵兵を殺すシークエンスの無常観、学友のブーツのエピソード、食料が底を付き疲労困憊するところ、帰省した主人公の蒐集した蝶のカット、野戦病院の人をモノ扱いする非情さ、束の間の女性との憩い、そしてラストシーンと、総てと言っていいくらい印象に残るシーンの連続であり、脚本・演出・演技の完成された作品として高く評価したい。
第一次世界大戦終結から約10年の歳月を経て、トーキー映画誕生の時代背景から生まれた映画史に明記すべき戦争映画である。唯一、レマルク原作のドイツが舞台のアメリカ映画故、台詞が英語の違和感は拭えない。しかし、これはまた、映画に国境がなく、自由な制作と表現が成されていた当時のアメリカ映画の懐の深さを思うと、素晴らしいことではないだろうか。

  2007年 10月28日 DVD

初見は上記より30年以上前の高校一年生の時、淀川長治氏の日曜洋画劇場だった。この時も感動し、特にラストシーンの終わり方が印象に残り、戦争映画の個人的ベストに位置づけられた。中学・高校時代で鑑賞した「誓いの休暇」「禁じられた遊び」と併せて、私の反戦映画のベスト3は、今も変わらない。日常生活では戦争について深く考えることはないので、せめて映画を観てはその都度僅かな知識を蓄えるようにしてきた。日本映画でも「五人の斥候兵」「土と兵隊」「二十四の瞳」「ビルマの竪琴」「ひめゆりの塔」「海軍特別年少兵」「日本のいちばん長い日」「真空地帯」「拝啓天皇陛下様」などで太平洋戦争について考える機会を得る。映画に夢中になった中学時代には、国内の軍部に徴兵された父に、何故日本はアメリカと戦争をしたのか質問したことがある。納得できる回答は得られなかった。学校の歴史の授業でも明治維新までで終わり、まともに太平洋戦争について教わることが無く、その疑問を映画で何とか理解するのが私の勉強法だった。そして今日、意外だったのが、2016年公開のアニメ映画「この世界の片隅に」が話題になったこと。今の時代に合った表現の戦争秘話のヒットと評価に驚きを持って、テレビドラマと映画を観たが、その語りは自然体のとても柔らかいものだった。テレビドラマでは、その世界観がモーツァルトのクラリネット協奏曲の第二楽章を連想させる穏やかな諦観を感じさせた。このような太平洋戦争を扱った日本映画が、新しい切り口と表現法でこれからも作られることを願うし、関心を持った人が少しでも古典の世界の名作に触れられたら、得るものがあると思う。

Gustav