「吸って吐くという行為に仕込まれたメタファー」スモーク えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
吸って吐くという行為に仕込まれたメタファー
ブルックリンの片隅にあるタバコ屋を行き交う人々の物語。
14年間毎日同じ時間・同じ場所で写真を撮り続ける店主、銀行強盗に妊娠中の妻を殺害され、書けなくなった小説家、12年前、事故で母親を失い、父親に捨てられた黒人の少年など、複数の人間模様が章立てでパラレルに描かれている。
タイトルにもなっている喫煙シーンは作中も随所に出てくる。喫煙者、喫煙経験者なら分かるが、タバコは「間」を創る大人の道具。アウトプットしながら生きるには、インプットしないといけない。吸って吐くという行為にはそんな大人たちの「間」というメタファーが潜む。
眼の前の現実は、過去の原体験の積み重ねで世界化される。店主の撮った4000枚に及ぶ写真1枚1枚をゆっくり見ることの意味は、原体験を丹念に形象化して、現実の世界を創ることにあるのだろう。
実に映画らしい、素晴らしい映画。飾らない大人の男たちがブルックリンで静かに笑っている。
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