「誰でもない小市民がヒーローになる時」ジョーズ 清藤秀人さんの映画レビュー(感想・評価)
誰でもない小市民がヒーローになる時
50年目の夏、あまりにも暑い夏、久しぶりに観てみると、海水スレスレに設置されたカメラワークがもたらすあっぷあっぷ感や、餌場を見つけたら徹底的に食い尽くすサメの習性に根差した設定や、意図的に誇張された血みどろ、または肉体破損シーンに改めて惹きつけられてしまった。だからこれは、紛れもなく海洋ホラー映画なのだが。
むしろそれより、水嫌いの警察署長と頭でっかちだがやることは理に適っている若い海洋学者が、サメの怖さを誰よりも熟知しているサメ退治のプロが操縦する船の上で、次第に仲間意識で繋がっていく過程にホロリと来てしまった。歳のせいだろうか。
特に、小市民の代表みたいなロイ・シャイダー演じる警察署長が、いつの間にかヒーローになっていたという展開がいい。『激突!』('71年)のデニス・ウィーパー、『未知との遭遇』('77年)のリチャード・ドレイファスと、キャリア前期のスピルバーグ作品では誰でもない誰かがドラマの主役になって物語を牽引していくことが多かった。作品がメガトン級のヒットになったのは、もしかして、そこが理由なのかもしれないと思った。ハリウッド映画に相次いでスーパーヒーローが登場する前の話だ。
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