「初めてのファスビンダー。」自由の暴力 TRINITY:The Righthanded DeVilさんの映画レビュー(感想・評価)
初めてのファスビンダー。
36歳の若さで世を去ったニュー・ジャーマン・シネマの鬼才、ファスビンダー。
今まで作品を観る機会がなく(以前『ケレル』のソフトを注文したら廃盤になっていた)、本作もこの日が最終上映。まったく下調べもせずに行ったら、LGBTど真ん中の映画だった。自分、ストレートなんだけど…。
統合前の西ドイツ。しけた見世物一座でしゃべる生首なんてインチキ芸で日銭を稼ぐゲイのフランツ(つまり、彼も人を騙す側の立場だったことに)。
一座の摘発で収入の場を無くすも、ロトが高額当選。しかし、そのことでセレブの同性愛グループに目を付けられ、何もかも失い絶望の淵に陥る羽目に。
いい生活してるくせに庶民のフランツからむしり取る連中もひどいが、ラストに登場する少年たちの行動も衝撃。不良には見えないが、当時の西独のモラルや治安、どうなってるんだ?!
ロマン主義の作風で人気を博したヴェンダースや、歴史から材を取って問題作を連発したヘルツォークと並び称されるファスビンダー。
一作観ただけで判断すべきではないだろうが、虐げられる者への容赦のない眼差しからは、ネオレアリズモの影響がみてとれる。
主人公のフランツは器量も悪ければ、人間性も無垢ではない。
ガサツで行儀も悪く、ロトに当選したことで万能感に浸り、簡単に他人を見下す。
そのくせ、騙されていることにまったく気付かない単純さで、悲惨な最期にも同情しづらい点は『阿Q正伝』の主人公を思い出す。
タイトル『自由の暴力』(原題が Faustrecht der freiheit だから、以前の邦題より近い感じに)からも、冷戦下の自由主義陣営にありながら、体制への幻滅を感じさせる作品。今なら「左翼的」のレッテルを貼られることは確実。
フランツの姉や一座のストリッパーらの外観が醜悪なのに対し、セレブの階層が概ね美形揃いなのも、自由主義の虚栄や幻想を揶揄しているのだろうか。
にしても、フランツを演じる役者はとりわけブサイク。
このテの役をやるには体のラインも美しくなく、何でこんなのが主役に抜擢されたのかと思ったら…。
た、大変失礼しました!
ファスビンダー監督が主演も兼ねていると分かっていたら、フランツの予言的な最期もまた違った感慨で観られた筈。
やっぱり観る前の最低限の予備知識は必要なのかも。
こんな性質の映画ゆえか、当日の劇場は自身久方ぶりの独り占め状態。
みんな、ファスビンダー作品観たくないのか(内容にもよるけど)。
おかげで出町座謹製「貸切王」の缶バッジを頂戴しました♡