劇場公開日 2025年12月5日

「普遍性と特殊性」ジャグラー ニューヨーク25時 のむさんさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0 普遍性と特殊性

2025年12月7日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

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興奮

 TBSラジオ「アフター6ジャンクション」内で、パーソナリティのライムスター宇多丸さんが激押しし続けていたので、なんとなく知っていた作品。この度4K修復版が劇場でかかるとのことで、走って見に行きました。もう最高!何度でも見たい!シネマートさん、2~3本連続で見るにはあの椅子は固すぎるから、もうちょっといい椅子になりませんか?いや、自分でクッション持ってけばいいな、よし、また行こう!

 プロットを切り取ると、「富豪の子女と間違えて誘拐された娘を救おうと犯人を追いかける元警官の父親の追跡劇」という、どこにでもありそうな普遍的な題材である。映画を見終わっても、80年代のB級アクション映画の枠を出ない。しかし、この映画全編をつらぬく異様な熱量、疾走感、有無を言わせぬ勢いに終始圧倒され、他のことを考える暇もなく101分間映像を受けとめ続けるしかない、1000本ノックのような映画体験は、他の映画では味わうことはできない。ダッシュで買いに行くから、すぐにブルーレイを出してくれ!

 上記ラジオの特集でも触れられていたが、この映画には「その時代の場所と時間がまるごと切り取られている」ように思う。1980年のニューヨークという、もう二度と出会うことのない空間に、この映画を見るとアクセスできるような、そんな気持ちにさせてくれる映画にはめったに出会ったことがない。私は1985年生まれで、ニューヨークには一度も言ったことはないから、この映画に写っている風景に対して、「あの時のあの場所だ」という実体験を持ってはいない。しかし、この映画を見ると、時間と空間を越えて、そこに生きる人々の「生」に出会えた感覚を覚える。映画はあくまでも虚構だが、そこに描かれているのは現実である。そう感じるのは、一人として人間性をはく奪されたモブキャラクターがいないからだろう。追跡劇の最初に出会うプエルトリコ系のタクシーの兄ちゃん、犬のタグをくれる大人のお店のお姉ちゃん、サウスブロンクスで出会うタクシー運転手の黒人姉ちゃん、次々と出てくる名前もない登場人物すべてに「生」がある。そんな「人生の営み」が複雑に絡み合って、「街」という大きな塊が出来上がるのだと、この映画を見て思った。この映画に描かれているのは「街」であり「人」である。極論を言えば、一人一人の人生に「普遍」などなく、全てが「特殊」で「一回性」を持ったものである。だから、普遍的なプロットの、当たり障りのないこの映画が、他のどの映画にもない特殊な魅力を持っていると感じるのにも納得がいく。そういえば、今目の前にある4K修復版のパンフレットも、表紙はニューヨークの街が描かれている。顔なじみの多い「町」ではなく、顔も名前もわからない他者がぶつかり合いながら生きる「街」で生きる私に、この映画は多くのことを語りかけてくれたのだ。

のむさん