ジャグラー ニューヨーク25時 : 映画評論・批評
2025年12月2日更新
2025年12月5日よりシネマート新宿ほかにてロードショー
70年代末のニューヨーク。都会の狂気と興奮を記録した幻の傑作、45年目の帰還
1980年6月に日本公開された後、一度のビデオ化のみで権利問題から封印されていた本作が、8月の全米公開に続き、ついに日本でも45年ぶりに4K上映される。出演はジェームズ・ブローリン(ジョシュ・ブローリンの父)、クリフ・ゴーマン、アビー・ブルーストーン、リチャード・カステラーノ、ダン・ヘダヤほか。製作中にブローリンが骨折し、監督が当初のシドニー・J・フューリーからロバート・バトラーへと交代する異例の経緯をたどった作品としても知られている。
ニューヨーク(NY)在住の元警官でトラック運転手ショーン(ブローリン)は、15歳の娘キャシー(ブルーストーン)を誕生日の朝に誘拐されてしまう。犯人のソルティク(ゴーマン)は法外な身代金を要求、トネリ警部補(カステラーノ)や元同僚バーンズ(ヘダヤ)らによる的外れな捜査に怒った彼は、古巣の警察と衝突しながら単身犯人を追う。犯人が残したわずかな手がかりを頼りに、ショーンは命懸けで娘を救おうと街を駆け巡る。

(C)1980 GCC Films, Inc
ウィリアム・P・マッギヴァーンの原作は、軍事評論家ルーサー・ボイド大佐を主人公に、巨漢の小児性愛者による連続殺人という猟奇性を持たせ(頸静脈=jugularをかき切る手口)、被害者は金髪の少女たちで、舞台はNYのセントラル・パークのみ、という限定的な設定が特徴だ。一方、映画版はボイドを肉体労働者に変更し、犯人の動機にスラムの地上げ問題を与え、実際に財政難から犯罪が激増していた70年代NYの空気感を描いている。娯楽と社会性の双方を取り込んだ重層的なアクション映画として後年評価が高まり、長らく幻の傑作と言われてきた。
作品の魅力は、画面から溢れんばかりの荒々しい疾走感。実際の事故と見紛うような生々しいカーチェイス、ゲリラで撮られた市街のリアルな銃撃戦、猥雑なタイムズスクエアの実景など、激しいアクションと危険で退廃的なシーケンスが連続する。それは現在のCGが多用された映画にはありえない、“70年代末NYの熱気と腐臭”そのものであり、それが観る者の心拍数を問答無用に上げていく。
そして、もうひとりの主役はNYそのものである。同時期の「ウォリアーズ」(1979)、「クルージング」(1980)、「ナイトホークス」(1981)などと同様、“崩壊した街とアウトサイダーな主人公”の構図でニューシネマの残り香を漂わせつつ、機材や技術の発達でロケ撮影が自由になり、前述のような都会×エンタメを標榜した個性的な映画群がこの時期に生まれた。本作は70年代映画の狂気と80年代アクションの興奮が一点で交差した奇跡的な一本であり、45年の間にカルト化し“都市型暴力映画の最重要作”となったのである。
(本田敬)

