劇場公開日 1997年3月22日

「映画が多様で豊かだった時代の秀作。」シャイン あふろざむらいさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5映画が多様で豊かだった時代の秀作。

2024年6月30日
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鑑賞方法:VOD

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これはよかった。

主演のジェフリー・ラッシュが第69回アカデミー賞で主演男優賞を受賞したので日本でも話題になった。

オーストラリアの実在のピアニストであるデイヴィッド・ヘルフゴットの半生を描いている。
ピアノに関して神童的な実力を持つデイヴィッドは、注目を集めて、より高い教育を受けるように勧められる。しかし、家族のもとを離れることになると、そのつど父親が拒否してしまう。
家族を捨ててイギリスの王立音楽院にわたったデイヴィッドはコンクールで優勝するが、その場で昏倒。精神病院で生活することになる。しかし、ピアノの演奏技術は人々の注目を集めて、彼は人生を切り開いていく。といったもの。

実在のピアニストではあるものの、実際とは違う部分がいろいろあるらしい。
「勇者が冒険の旅に出て、試練を経て褒美を手にする」という、キャンベルが提唱している神話の構造に忠実に作ったために、家族が納得できない結果になったのだろう。ただ、それゆえにわかりやすい展開になっている。

なぜこの映画が作られたのか。当時の世界の状況を振り返ると、多少はわかるかもしれない。公開が1996年なので、仮に1994年頃に制作が開始されたとする。
ルワンダの虐殺、ボスニアの空爆、第一次チェチェン紛争、松本サリン事件などがあった。
また、イスラエルとヨルダンの平和協定、ネルソン・マンデラが南アフリカ共和国初の黒人大統領となった、というニュース。アカデミックな方面では、フェルマーの最終定理が証明され、360年にわたる議論に決着がついた、といった出来事もあった。
出来事は違えども、30年前も今も、世界は相変わらず混沌としていて、それでも人は生きていかなくてはならない。
この感覚は、「人生には大変なことも多々あるが、それでも生きていくことが大切」という本作のメッセージにも通じている。特殊なメッセージではないので、普遍的とも言える。

なお、第69回アカデミー賞では本作と、「イングリッシュ・ペイシェント」と「ファーゴ」が、いろいろな部門で賞を争った。

「イングリッシュ・ペイシェント」は未見だが、「ファーゴ」は観た。
主演のフランシス・マクドーマンドが、犯罪者役のピーター・ストーメアに「あなたたちのような人間が理解できない」といったニュアンスのセリフを言うのだが、このやりとりが本作とリンクしており、面白い。

本作では父親が「私は若いころにお金をためて美しいヴァイオリンを買った。それを、私の父親がどうしたか、知っているだろう?」と聞くシーンがある。この質問は映画の最初のほうと後半で出てくる。本当はデイヴィッドは答えを知っており「父親がヴァイオリンを壊した」と答える。そのあとで父親は「お前は幸運なんだ」と続ける。自分は音楽をやらせてもらえなかったが、お前はピアノを弾かせてもらえるじゃないか、というわけだ。

しかし、後半で父親が同じ質問をするとデイヴィッドは「知らない」と答える。彼が拒絶するのは、自分を縛りつけている父親から独立したいからだ。「ファーゴ」の「同じ人間でも理解しあえない」という趣旨のセリフとはニュアンスが違うとはいえ、コミュニケーションの断絶という意味では共通している。当時は、他者と理解しあうことの難しさといったものが、問題意識としてあったのかもしれない。

製作費は8億8千万円。興行収入は57億円。これは現在の相場で計算しているから30年前の通貨価値とはだいぶ違うと思う。ただ、製作費の6倍ほどの売り上げになっている。
ちなみに、「イングリッシュ・ペイシェント」と「ファーゴ」も製作費の8倍程度の興行収入をあげており、当時のアカデミー賞ブランドの強さをうかがわせる。

ショパンやラフマニノフといったクラシックの人気曲が使われているので、クラシックが好きな人はより楽しめると思う。

あふろざむらい