「馬と女とアイルランド」静かなる男 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)
馬と女とアイルランド
1952年。ジョン・フォード監督。幼いころにアイルランドを離れてアメリカにいった男が大人になって帰ってきた。かつて家族が住んでいた地所を買い取って昔ながらの生活をしようとする男は、羊を追う赤毛の女に一目ぼれ。近づこうとするが、その女が気の強い天邪鬼で、しかも、女の兄は男が買い取った地所をかねて欲しがっていた因縁で男を敵視して、、、という話。
強いけれども戦わないと誓った男が戦うまで。その過程で、地所と結婚と宗教とコミュニティなどをめぐって、アイルランド独自の風俗が説明的に展開している。特に、結婚持参金について、単なる金ではなく女性の主体性と関わる重大な問題となっていて、現代のジェンダー規範から見たら問題山積ではあるものの、モーリン・オハラの変わったキャラクター造形もあいまって、複雑な意味合いが表現されている。誰でも気づくように、最後の山場に向けて街中や野原を女を引きずるように歩く男の姿は、それ以前に華麗に馬を駆って走っていた男の姿と重なって見えるので、女と馬が比較対象として脳裏に浮かんでくる。浅瀬を水を蹴りたてて走る馬、浅瀬を水を蹴りたてて走る女。当然、その違いが面白いのだが。馬の映画であり、女の映画でもある。
海も川も雨も自然の水の映像がすばらしいうえに、教会前の聖水であいさつしたり、倒れた男に何度も水をかけたりなど人工的な水の扱いもすばらしい。
この作品を見ると、蓮實重彦のいう「ジョン・フォード作品と「投げること」」の意味がよくわかる。それほど、いろんものが投げられている。
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