「悪ふざけマキシマムオーバードライブ!」地獄のデビルトラック 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
悪ふざけマキシマムオーバードライブ!
勝手にスティーヴン・キング原作映画特集その27!
この特集も随分長く続けてきたが、今回で最後(=ネタ切れ)。
『スタンド・バイ・ミー』『ショーシャンクの空に』『グリーンマイル』
『キャリー』『シャイニング』『ミザリー』『ミスト』……
数々の名作映画を生み出した彼の特集の最後を
飾るには、やはりこの名作が相応しいだろう……
スティーヴン・キング本人が監督を務めた1986年作!
エミリオ・エステべス主演のアクションホラー!
『地獄のデビルトラック』だッ!!(発狂)
様々なメディアで「キング原作映画で最低」との
そしりを受けてきた本作。果たしてどんな出来なのか?
DVDをネット購入して鑑賞! ¥4500! 高っけぇ!
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原作は依然紹介した『トラックス』(1997)と同じく
短編集『深夜勤務』の中の一編『トラック』になる。
とつぜん世界中の機械が意思を持って人間を襲い始め、
ガソリンスタンドのダイナーに閉じ込められた人々が、
周囲を囲うトラックの群れから生き残りを図るという物語。
昔から「最低の映画」と聞いていたのでハードルは下げていたが……
……あれ、ウソ……これ、けっこう面白い……?
いやね、これそもそもホラー映画のノリで作ってないんですね。
原作は終末感と気怠い絶望感を感じる出来なんですけど、
キングが脚本も手掛けた本作は全く方向性が違うんですね。
怖くないです。というかもう、間違いなく笑わせに来てます。
開始早々、電光掲示板やATMに放送禁止用語が表示され、
スティーヴン・キング(本人)が「ハニー、ATMが私に
〇〇〇〇野郎って言ってくるんだが」と話すシーンから
悪ふざけがマキシマムオーバードライヴ(原題)!
トラックだけでなく飛行機も芝刈機も電動ナイフもドライヤーも
大暴走。まあ機械が意思を持っても「そうはならんやろ」
と思えるシーンも多いのだが、ツッコんだ人が負けです。
自動販売機に股関を攻撃されるおじさんやら(意味が分からない)
ガソリンスタンドにロケットランチャーがあるやら(意味が分からない)
ムチャクチャなシーンがどんどん展開される。
不謹慎ながら思い切り吹き出してしまったのが、
野球少年が死体だらけの住宅街を自転車で
走り抜けるシーンで登場する、ワンコの遺体。
色々な映画で色々な動物の死に様を観てきたつもりだが、
あんな情けない死に様を観たのはこれが初めてである……。
口汚い聖書販売員やビミョー過ぎる新婚夫婦など濃いキャラも
わらわら登場するのでそこもツッコみながら観ると良いだろう。
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車が暴走したり、ロケットランチャーも機関銃も
登場する映画なのでアクションは(むやみに)多い。
CGも無い時代なのでアナログアクションが主体だが、
本気でヒヤッとするスタントアクションもちらほらあり、
オープニングのパニックや、大型トラックと普通車の
チェイスなど、アナログならではの緊張と興奮はグッド!
ガソリン増し増しの爆破炎上シーンもたっぷりなので、
アクション映画としての満足度が実はわりと高い。
また、音楽を手掛けているのは……なんとAC/DC!
キング自身も大ファンの世界的ロックバンドである。
全くホラー感は無いが、ゴキゲンに
アグレッシヴなハードロックサウンドは、
ショックシーンと悪ノリアクションだらけの
この映画の世界観に妙にマッチしている。
ここぞとばかりにキュイッ!キュイッ!キュイッ!と
唸りを上げるエレキギター! 名作スリラー『サイコ』の
殺人シーンで流れるあの有名な楽曲のハードロック的
解釈といった趣だろう(ごめん全然ピンとこない)。
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まあ、悪ふざけとショックシーン満載の序盤・終盤は割と楽しいが、
話が停滞する中盤で長いこと中弛みが発生する点は残念。
あとは……人生における教訓とか、胸を震わす感動とか、
出演陣の見事な演技とかは期待しない方が良い。
はい、リピート・アフター・ミー。
出演陣の見事な演技とかは期待しない方が良い。
(なぜか子役が一番上手い)
しかし意外や意外、
B級ホラーやハードロックをこよなく愛し、
悪趣味で不気味なのに妙に笑える物語も書く、
キングの陽気な面が存分に発揮された映画じゃなかろうか。
「たかがB級映画」と切り捨ててしまえばそこまでだが、
この映画は全身全霊でふざけまくったB級映画だ。
そのノリに付いて来れれば、本作ははっきり言って楽しい。
観て損ナシの3.5判定!までは差し上げられないが、
悪くないですよコレ、3.0判定です。
<了> ※2018.11初投稿
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最後に:
英国Total Films誌の『キング原作映画ベスト20』
という記事を読んだ時から、キング原作本の
“布教活動”として勝手にスタートしたこの特集だが、
足掛け6年にしてようやくの終了。おっそい。
あくまでキングが原作を手掛け、劇場公開された
映画に絞っているため、TVドラマ、TV映画、
オリジナル脚本映画は除外してあるのでご了承されたし。
(ちなみに『キャッツ・アイ』や『チルドレン・
オブ・ザ・コーン』はレビュー書き上げてから
投稿出来ないのに気付いて吐血しました)
それでもキング原作映画は残っているし、今後も
『ドクター・スリープ』『ペットセマタリー』
『IT 第2章』などの公開も控えているので、
まあ今後もぼちぼちとレビューしてく所存です。
原作の解釈がまるでなってないぜ!とか、
あの作品の良さを全然分かっとらん!とか、
色々とご意見あったと思いますが、
ひとつでも読んでくださった皆様、駄文に
お付き合いいただき本当にありがとうございました。
最後に、中学の頃から大好きな作家スティーヴン・キングへ感謝を。
ごくごく平凡な人々の心情描写・日常描写を丹念に描き、
そこに超自然的な存在や非日常な危機を忍び込ませることで
恐怖をより現実味のある形で描き出すのが彼の特徴だが、
リアルな恐怖描写や突拍子もないアイデアの数々は勿論のこと、
自分が作品を楽しんで書いている感じや、登場人物に
対する愛情、フィクションの持つ力を信じている所。
彼の作品のそういった所が大好きである。
2018年現在で御年71歳とのことだが、末永くお元気で。
キング万歳!